第10話FileNo.10 芋三郎刑事 最後の事件

【プロローグ】


都内の超高級ホテル「グラン・ミラージュ」。

大広間では、警視庁主催の年末大忘年会が盛大に行われていた。


煌びやかなシャンデリア。

豪華な料理。

談笑する幹部たち。


その中で、芋三郎と広瀬もグラスを片手に立っていた。


「いやぁ……今年も事件だらけでしたねぇ」

広瀬は拳銃の先で頭をぽりぽりとかきながら言う。


「来年は広瀬君が活躍してくれると助かりますけどね」

芋三郎は微笑みながらシャンパンに口をつけた。


その時――


「あれ?なんか騒がしくないですか?」


廊下から警官が叫びながら駆け込んできた。


「た、大変だーー!!

警視総監がホテルの部屋で死んでいる!!」


会場に緊張が走る。


芋三郎は静かにグラスを置き、目を伏せた。


「……今年最後の仕事になりそうですね。

広瀬君、行きますよ」


二人は最上階へ向かった。


高級ホテルのスイートルーム。

またしても密室殺人。

そして被害者はまさかの警視総監。


シリーズ最大のそして最後の事件が幕を開けた。


【解明編】


ホテル最上階スイートルーム。

警視総監・黒田義男の遺体は浴室の浴槽で発見された。


科捜研の柳玲子が検視している。


「死因は心臓発作。持病からして自然死……に見えますね」


警官がうなずく。


「総監は心臓弱かったしなぁ」


芋三郎は静かに問いかける。


「総監は一人でこの部屋に?」


その時――

一人の女性が泣き叫びながら走り込んできた。


「あなた!どうして……どうしてなの!!」


広瀬が小声で説明する。


「芋三郎さん、あの人が総監の奥さん・亜希子さんです。

三十歳年下の……めちゃくちゃ話題になった美人妻の」


「なるほど」


芋三郎は丁寧に話しかける。


「奥様、お辛いところ申し訳ありません。状況を伺えますか?」


亜希子は涙をぬぐいながら答えた。


「わたしは……先に会場に行きました。

彼はみんなの前で“サプライズ登場”するって言って……」


指さした先には、

ど派手なマツケンサンバの衣装が飾られていた。


芋三郎「奥様はずっと会場に?」


亜希子「ええ……ずっと」


玲子「死亡推定時刻、確かに奥様は会場にいました。アリバイは成立します」


芋三郎は黙って浴室へ入った。


湯にそっと指を入れる。


――冷たい。


その瞬間、芋三郎の表情が変わった。

床に落ちたわずかな水滴、氷の欠片、そして……総監のスマホの位置。


芋三郎は目を閉じ、静かに呟いた。


「……繋がった」


数分後。

芋三郎はスイートルームへ戻ると、

ゆっくりと亜希子を指差した。


「犯人は――亜希子さん、あなたです」


一同「えぇぇぇえええ!!?」


広瀬「ちょ、ちょっと芋三郎さん!? 奥様には完璧なアリバイが――!」


亜希子は涙を止め、低い声で言った。


「……証拠は?」


芋三郎は淡々と答える。


「浴槽のお湯が“冷たすぎる”のです」


亜希子「……っ!」


広瀬「冷めただけじゃないんですか?」


芋三郎はビニール袋を取り出した。


「排水口に詰まっていた――ロックアイスの袋です」


広瀬「ひゃっ……! こんなの入ってたら心臓弱い人は……!」


芋三郎「そう。あなたは浴槽に大量の氷を入れ、

“冷水ショック”で総監を心臓発作に見せかけて殺した」


その時だった。


亜希子「ふざけんじゃねぇぞコラァ!!このイモォーッ!!」


広瀬「(びくっ!!)豹変した!!」


亜希子「アタシはずっと会場にいたんだよ!?

どうやってジジィを風呂に入れたってんだ!!」


芋三郎「説明しましょう。

――亜希子さん、あなた携帯電話をお持ちですね?」


亜希子「……持ってるけど?」


「では、総監の携帯に電話をかけてみてください」


亜希子の表情が凍りつく。


広瀬が素早く携帯を奪い、発信した。


ヴヴヴヴヴヴ……


次の瞬間、浴室から声が響く――


『オフロガワキマシタ。オフロガワキマシタ。』


広瀬「こ、これ……入浴アナウンスの声だ!!」


芋三郎「総監は着信音を“お風呂の通知”と勘違いした。

そして冷水風呂へ――」


亜希子「くそったれぇえええ!!」


警官たちが亜希子を取り押さえた。


広瀬「動機は……まあ全員わかっているので言わなくていいです」


パトカー「パーーーッ……プー……」


事件はこうして幕を閉じた。


【エピローグ】


ホテルの廊下。

芋三郎と広瀬は窓の外の夜景を眺めていた。


広瀬「最後までバタバタでしたね……」


芋三郎「ええ。ほんとに最後の最後まで忙しい一年でした。」


ピロピロピローン。


広瀬「奥さんからメールですか?」


芋三郎は苦笑しながら画面を見せた。


『早く帰らないと家に入れません。』


広瀬「……密室の次は締め出しですか。ふふふ」


芋三郎「このトリックだけは解けそうもありませんね」


ホテルの外では、

年越しの鐘が静かに鳴り始めていた。


――FileNo.10 完。

――里中芋三郎の事件簿・第一部 完結。


ご愛読ありがとうございました。

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このミステリーがひどい! 里中芋三郎の事件簿 @panjizzz

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