唾を飲むコンテスト

不適合作家エコー

唾を飲むコンテスト

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「さぁさぁコンテストも佳境。もっとも唾を飲んだチャンピオンの栄光を手にするのは果たして、どのジャンルだー!?」


 激しめのテンションで司会がマイクに唾を飛ばす。

 青空の元に開催された唾を飲むコンテスト。多くのジャンルが我こそはと挑んだ彼らだが、多くの者が存外に伸び悩んでいた。


「おっとここで第2位を争うミステリージャンルとハードボイルドジャンル!! ミステリージャンルが推理公表パートで追い上げる!!」


 ミステリージャンルの快進撃。

 犯人は唾を飲み、居合わせた者も唾を飲む。


「いや、ハードボイルドジャンルも犯人との抗争パートで負けじと猛追……いや、飲んだか? 飲んでないのか? 飲んでる? 飲んでない? 今、飲んだのは……あああ! これは加点ならず。今飲んだのは……息だーーーっ」


 その後も天を仰いだまま硬直するハードボイルドジャンル。これ幸いと加点を続けるシリアスジャンル。しかし、その後ろに大きな影が迫る。


「ん……これはなんだ? とんでもない速度で加点されていくのは……ホラージャンル!! ホラージャンルの猛追です」


 息を殺して怪物から隠れるパートに入ったホラージャンルが、スポーツカーの如き爆速で駆け抜ける。彼と比べてはシリアスジャンルの加点など、自転車にも及ばない。そしてハードボイルドジャンルはまた、天を仰ぐ。


「凄まじい猛追です。圧倒的な大逆転!! しかし、届かないか。一位は遥か彼方……恋愛ジャンルだ!!」


 ヘタレな主人公をチョイスしたのが功を奏した恋愛ジャンルは、未だ首位を独占。


「強い。強いぞ恋愛ジャンル!! 唾を飲む。唾を飲む。何かにつけて、唾を飲む!!」


 更に無情。ここでホラージャンルがローギアに入る。

 どうやら危険地帯の脱出パートに入った様で、胸を撫で下ろしている。


「決まったか? ここまでなのか!? ハードボイルドジャンルは、ああダメだ。天を仰いで、紫煙を空に溶かしたー!!」


 誰もが恋愛ジャンルの独走を疑わなかったその時だった。


「お? 恋愛ジャンルが急停止した!! これはどうしたことでしょうか、山根さん?」


「あー、これは恋愛ジャンルの主人公が付き合って半年、調子にのり始めていますね。これはよろしくないですね」


 完全に停止した恋愛ジャンルは浮気から破局に涙し、後悔している。


「これは驚天動地にして因果応報。そして天罰覿面!! さぁこの隙に首位を攫うジャンルは現れるか! 果たして果たして……ん? あれは……」


 誰もが目を疑った。

 停滞期に入った恋愛ジャンルに迫るそれは……。


「なんだ? なんだ! なんだーーーーっ!? なぜお前がここにいる!? 首位争いに目を向けていた間隙を縫う様に、ここでハードボイルドジャンル!? 目にも止まらぬ早さで唾を飲む!?」


 山根さんが目を凝らしつぶやく。


「ああ、なるほど。ハードボイルドジャンルはどうやらクセの強い嫁パートですね。ヤンデレ鬼嫁を相手にタジタジの模様です……これは情けない追い上げ」


「しかし勝負の世界は結果が全て!! 鬼嫁に尻を叩かれながら、今、恋愛ジャンルを追い越して……王者の決定だーーーーー!!」


 弾ける歓声、夕陽に向かって吠えるハードボイルドジャンル。


 その後ろで、山根さんがボソリとつぶやく。


「いやぁ、はい。でも、それって、恋愛ジャンルではないんですかね……」

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