第一話 大学生官能小説家
午後2時37分。三限目『国際経済学』講義。
―教科書二十二ページ。国際貿易における通貨価値についてのジレンマの存在について―
催眠、洗脳、拘束、公開排〇……
教授の声を聞き流しながらノートにペンを走らせる。大学二年生にもなれば講義中の副業も慣れたものだ。
罫線に並べた
(催眠と洗脳は却下。ヒロインの誇り高さが台無しになるからな。拘束もダメだ。女騎士や魔法少女みたいな戦うヒロインならいいけど、スフィーアは精霊の巫女で彼女自身には力はない設定だ……)
次回作のヒロインの設定を確認する。湖の恵みで生きている王国の巫女である彼女は、古代ギリシャ風の服装が似合う清楚な十八歳。長い水色の髪の毛を二つ結びにした髪型の通り、優しく穏やかな性格だ。同時に湖を守るという巫女の役目に強い信念を持っている。
つまり身も心も美しい聖女だ。男なら誰でも幸せにしてあげたいと思うような女の子。だがフィクションは残酷だ。
湖は上流にある帝国の鉱山により汚染されている。鉄の武器で武装した帝国と戦って勝てるはずがなく、スフィーアは湖を守る巫女として交渉で事態を打開するしかない状況に追い込まれる。
王国の男たちは何をやってるんだって? このジャンルにおいて味方の男はミステリ小説における警察並みに無能と決まっている。
交渉相手は帝国の腹の出た中年皇子。若い女を凌辱するのが大好きという正真正銘のクズだ。名前は……竿役の名前なんて後でいい。とにかくこの竿皇子は交渉と称してスフィーアの身体を要求する。
枕営業ならぬ枕外交だ。一作目が暴力的な
―国家間の交易条件は通貨の強弱だけでなく外交による……―
思わず耳に入った講義内容に苦笑する。枕外交なんて国際経済では絶対に出てこない単語だな。ハニートラップとかないことはないんだろうけど。人間の目的なんてつまるところ
っと、余計なことは考えないで仕事に集中しなければ。単位を落としても来年取ればいいが、次の本を出せないと来年ここに座っていられるか危うくなる。
ボールペンでノートをなぞりながら
巫女であるスフィーアは処女。処女は手間がかかって大変、もちろん書くのがだ。その代わりシーンが無条件に盛り上がるから外せない。
古代ギリシャの巫女は聖娼だったんじゃないかって?
残念、この物語はフィクションであり実在する個人、団体とは関係ない。
何なら地球ですらない。ちなみに地球ではないが一年は三百六十五日で、一日は二十四時間だ。したがってスフィーアは地球基準でも成人年齢だ。まあ非実在のキャラクターに実年齢も何もないが。
って締め切り近いのに閑話休題やってる場合じゃない。
(スフィーアの客室に竿皇子が押しかけて力づくで……じゃ一作目と被る。せっかくの交渉物なんだから……。そうだな交渉の打ち切りを突き付けられたスフィーアは自ら竿皇子の寝室へと向かう)
あくまで自らの意思で身体を差し出すことが大事だ。大切なものを守るために、下卑た竿役に自ら身を差し出すからこそ、スフィーアの内面が強調される。
竿皇子はそんな健気なスフィーアを容赦なく凌辱する。最初は痛みに耐えているだけのスフィーアだが、権力に任せて多くの女をいたぶってきた竿皇子の手管に少しずつ若い身体が反応していって……。
朝、恩着せがましく「交渉を継続してやる」と言って引き上げる竿皇子。ベッドの上でうつ伏せのスフィーア。シーツにはだんだん薄くなっていく三つの血痕。涙ににじむスフィーアの瞳だが、意思の光は消えていない。
(いい感じじゃないか。いやまてよ一回目から連戦は後の展開に困るか……)
担当からは最低三回は本番が必要だって言われている。処女喪失は盛り上がるが、物語の序盤にいきなりクライマックスが来てしまうという構造的な問題がある。
せっかく卑劣な竿役を用意するんだから、ねちっこくじっくりしっかりと責めていくのがいいか。となると一回目はあえて正常位で一度だけ。そして二夜目は口の後に後背位、三夜目は連戦の締めの騎乗位と過激にしていく。
テンプレートそのままだが問題ない。アダルトビデオの体位の流れがどれも同じなのは、それが男の本能に最も訴えかける流れだからだ。若く美しい女性がだんだんと男の手により征服されていく、その過程を示す為に、これ以上のパターンを人類は知らない。
夜を重ねるごとに竿皇子に身体を開かれていくスフィーア。軽蔑すべき男の上で自ら腰を振らされみじめに絶頂する。凌辱の定番にして王道だ。
ただしヒロインの身体は落ちても心は屈服しないのが大事だ。スフィーアはただ耐えているだけじゃない。彼女にはちゃんと勝算がある。
快楽におぼれながらも最後まで巫女としての志だけは守ったスフィーア。彼女の時間稼ぎは成功して、復活した湖の精霊により帝国軍は洪水で押し流される。もちろん竿皇子もともにだ。
湖は守られる。だけど彼女のお腹には竿皇子の子が。
肉体的敗北と精神的勝利という結末。これなら読者も満足するはずだ。
よし、企画の骨子は出来たな。次はサンプルとして提出する一回目のシーンだ。締め切りまであと二日、こりゃ今夜は徹夜だな。
サンプルシーンのプロットを書き出すため新しいページをめくった時、ペンが止まった。
(一作目と被りすぎないように確認しておく必要があるな)
鞄に手を入れる。指がツルツルのカバーに触れた。白いドレスのエルフ姫をオーク王が組み伏せているカラーイラストが描かれたカバー、日の当たる場所では取り出せない危険物だ。
周囲を確認した後、慎重に指を動かす。指がカバーの隙間でむなしく空を切った。慌てて手を奥に突っ込むが、そこには何もなかった。
(まさか昼飯の時か!?)
講義の前、昼飯の親子丼を食べたカフェテラスで本を取り出したことを思い出す。ちなみにこの親子丼は一般的な食べ物の名称であって、間違っても特殊なプレイのことではない。
ってそんなことはどうでもいい。
思い出せ。親子丼を食べ終えた後、俺は思いついたアイデアをノートに書き留める為にノートを開いた。その時に本を椅子の上にどけたことは覚えている。そのあと……そうだ三限目に遅れそうになって慌てて席を立って……。
やってしまった。鞄に本を戻した記憶がどこにもない。酒に睡眠薬を盛られたヒロインが朝目を覚ました時くらいすっぽりと抜け落ちている。
…………
―では今日はここまでとします。次の講義では今回概要を説明したトリレンマについて説明していきます。そうそう日本における円高、円安の……―
「二分オーバー。あの教授余談が長いんだよ。タイパを考えてほしいぜ。大神、今日は三限までだったよな。次の動画の台本の相談にのって――」
「わるい久我。用事が出来た」
声をかけてきた同級生にそういうと、俺は足早に講義室を出た。
早く回収しなければ。自分の仕事を恥じるつもりはないが、アレを日の当たるところに晒すのはよろしくない。
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凌辱しか書けないエロ小説家だが、金髪セレブ留学生が取材協力と称してプレイを提案してくる のらふくろう @norafukurou
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