それでは恋愛の時間です
@sink2525
第1話 始まり
秋とも言い難い季節に嫌気を感じながら黒板を見つめた。コンコンと鳴り響く音。チョークが黒板をなぞる。時刻は18時。ほとんどの生徒は帰宅しているか部活をしているかの時間帯であるだろう。
そんな素晴らしいとも言える時間帯に何故か俺は教室に残っている。
まぁ、何故かと言われてしまえば勉強に付き合っているからだ。
「では! ここの問題が分かる人!」
元気よく声をあげて素早く体を俺に向けた彼女は――
あれは確か昨日の夕暮れ。
疲れを感じながら下校をしていると、突然雫が話しかけて来たのだ。
薄くなっている道で街灯だけが頼りの道。雲が消えて行く時間。鳴り響くエンジン音。それらを全部かき消すように彼女は言った。
突然の声にびっくりした俺は思わず声をあげた。しかし雫は至って冷静だった。
そしてこう告げたのだ。
「私が先生になるよ!」
うん。確かにこう言ったのだ。訳が分からぬ。そして今の状況に至る。
ともまぁこんな感じで友達になったのだ。友達だと思っているのは俺だけかもしれないがな。
さて、目の前の問題を考えるとしよう。
黒板にはでかでかと問題が書かれている。
恋愛基本編。
もし彼女が泣いていたらあなたはなんて声をかける?
「この問題は結構難しいですよ。誠君」
問題を読んでいると雫が俺の名前を呼んだ。照れることなんてなく本当に先生かのように振る舞っている雫に俺は少しだけ笑った。
それにしてもこれは問題と言えるのか?
正直これに関しては正解なんてないと思う。
例えば彼女が泣いていたとして、その問題が解決できるかと問われてしまえば簡単に首を縦に振ることなんてできない。話を聴くことで解決する問題も少ない。
そして何より俺は中途半端が嫌いだ。
根本的に解決したい派なのだ。だからこそ、投げ掛ける言葉が見つからない。
相談乗るよ?
これは違うな。
話聞こうか?
これも何か違う。
雫は困ったような表情を浮かべた。そして時間切れてとも言うような顔で告げた。
「はい。もう時間切れです。あ~あサービス問題だったのにね」
悪魔的な笑みを向けて来る。 教卓をトントンと小さく叩いている雫は俺を見つめる。綺麗な瞳が輝いているのが分かる。何一つ濁りのない瞳。
「分かった。答えは――いつまでも待つよ」
思考を回転して出た言葉がこれしか出なかった。しかし、オーソドックスな奴よりかはましだと思う。
泣いている時誰かに泣いている理由を話したい人もいる。また逆も然りで話しくない人もいる。
だからこそ、いつまでも待つよ、という相手にゆだねる決断をしたのだ。
俺の言葉を聞いた雫は何故か笑っていた。
「ぷ。はははは」
教卓を叩きながら雫は笑い続けている。そんな雫の髪が揺れた。
艶の掛かった長髪。映画のワンシーンのように綺麗な笑顔。小さく動いている体。
「ねぇ。誠」
楽し気に笑っていた雫は笑みを止めた。雫は左手で眉を撫で、頬を撫でていく。
針の音。息を吐く音。漂わぬ雰囲気。
そして雫は俺を見つめて言った。まるで俺が何かをしたかのように。
まるでこの世で1番嫌いな人に向けるような瞳で。
「永山誠。君の罪は何?」
もし過去に戻ることができるのなら――雫と付き合う選択は選ばない。
それでは恋愛の時間です @sink2525
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