アルのss 壱

有或在アル

右腕を狙われる悪夢

 二〇××年七月某日。

 これは、その日見た夢の中の出来事だった。

 午後十九時から二十一時にかけての、約二時間ほど眠っている間に見た夢で……僕からすれば、まるでホラー映画のワンシーンのようだった。

 その夢は主人公らしき人から見た一人称視点で進んでいた。

 僕がベッドから起き上がると同時に、玄関のチャイムが鳴った。恐る恐る開けると、女の子が入ってきた。そこら辺のテレビ番組に出てくるタレントの顔を二人足してそのまま二で割ったような、下手な可愛らしさを醸し出す子だった。

 その世界では、彼女は主人公にすごく嫌われていたらしい。理由はこの後、僕が何をされるかで分かるはずだ。

 僕は持ち主の身体から殺気が読めたのを感じて、僕は彼女を反射的にはたいてしまった。

 そしたら「話は後でね」と言われて、僕も腹を殴られて気絶。

 主人公の本来の気持ちが何かは分からなかったが、僕は自分と同世代くらいの女の子がなぜ自分を殴って気絶させられるのかが、ただただ疑問だった――。

 再び目が覚めると、僕は本棚にまみれた白い部屋にいた。

 そこに先程の女の子が立っていた。彼女は目をかっ開いて、魚を捌くものより数段大きな包丁を僕に突きつけた。

「右腕、切断させて」

 そう言われながら襲われたのを、夢から覚めた今でも覚えている。

 僕は必死で逃げ惑う。夢の中といえど、やつから逃げないと殺されることくらい理解していたから。

 先程彼女を叩いてしまったのは、今この状況とこの身体の主の境遇を鑑みれば正当防衛だったのだが、こんなことになるならしなければよかったかもしれないと、頭の中で後悔の気持ちが押し寄せた。

 でも結局、僕はつまずいて転んだ。僕は叫びながら、命乞いをするしかなかった。死にたくないと思ったのが、僕の元の身体からも伝わった。

 彼女は「やっと私のものになる!」とでも言うような狂気の笑みを浮かべて、僕の右腕に包丁を振り下ろし……!


 *


 その直前に目が覚めた。

 起き上がると、現実の僕の身体は汗だくだった。

 腕を切られる前に目覚めることができてよかったと思っている。あのままいけば、僕の精神は持たなかったはずだ。そう思うほどにリアルで恐ろしい――そんな悪夢だった。

 その日以来、あの子が出てくる夢を見ていない。

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