第7話 現状の説明を求めますっ!
「【小夜の花園】の塔の一階?」
そうボポロさんの言葉を繰り返すと、花園の中に塔があったことを思い出しました。
「────……まさか私の仕事場ってここですか?」
「ええ、それでは、塔の最上階に登りがてら説明をしていきましょうか。ついてきてください」
ボポロさんはそう言って私に背中を向け、ゆっくりと階段を登り始めました。
私もその後ろにとててと小走りについていきます。
「それでボポロさん、イータさんはどこへ行ったのですか?転移魔法はイータさんが使用したので一緒に来ているはずなのですが……」
「…………、イータは一足先に魔王城内へ戻りました。彼女にとって、この場所は体に毒ですからね」
「この場所は体に毒?それってどういうことですか?」
【小夜の花園】はイータさんにとって毒?なんでなのでしょうか、こんなにも綺麗なお花がたくさん咲いているのに……。
そう思った私がなぜか聞くと、ボポロさんは私に目を向けながら、「【小夜の花園】にて私があなたと出会った時、それと、目を覚ました時、いずれも同じ質問をしたのを覚えていますかな?」と聞き返して来ました。
「えっと、確かその二回とも私の具合がどうとか聞いてきましたね」
「そうです。では、私とイータがなぜそう聞いたのか、おわかりですかな?」
ふむ、なぜボポロさんとイータさんが私に具合を聞いたのか……ですか、ふっ、さっぱりわかりません!
そんな私の様子を見て、ボポロさんは私がさっぱりわかっていないことを理解したのか、「ほっほっほ、少し難しかったですかな」と言って微笑みました。
「なぜ、私とイータがあなたに具合を聞いたのか、その答えは、本来【小夜の花園】に入ったものは、"呪い"に掛かってしまうからです」
「の、呪い!?」
「ええ、呪いです」
私は驚いてしまい、大きな声を出してしまいます。
だって呪いですよ!?魔法とは違い、人を害することにしか使われない力のことですよね!!でも、なんでそんなものに掛かるものが魔王城の一角にあるのでしょうか。不思議です。
「通常ならば、【小夜の花園】に入った瞬間、この塔の最上階から放たれている呪いの効果を受けるはずなのです。なので、呪いの効果を受けてしまったイータはすぐに戻ったというわけです」
「イータさんが呪いに掛かった!?それ大丈夫なんですか!?」
「心配ありませんよミアナさん、この呪いは一時的なもので、【小夜の花園】から一歩でも外に出れば効果が途切れます。なので、イータにはなんの被害も及んでいません」
イータさんに被害がないのですね、なら良かったです。
ん?ではなぜ私が花園に入った時は呪いが発動しなかったのでしょうか?
「あなたは今こう思ったはずです。なぜ自分には呪いが発動しなかったのか、と」
「すごいです!ちょうど今そう思ってました!」
よくわかりましたね。ボポロさんは頭の中を読めるのでしょうか。
「それじゃあ、なんで私には呪いが発動しなかったのですか?」
私が疑問に思いそう聞くと、ボポロさんは立ち止まって振り返り、私の目をしっかりと見つめ、「それは私にもわかりません」と答えました。
「え?わからない?」
「はい、そうです。何せ、この呪いは一部の魔族を除いて誰にでも掛かってしまうのです」
「一部の魔族?」
「ええ、魔王様、罪域君、そして、四方守護者の家系のものだけです。私は四方守護者【東】オリエンス家出身ですので呪いの影響は受けません」
四方守護者、それは魔族の領土の東西南北を守護する人たちの総称です。
魔王様、罪域君、それに四方守護者……、ん?今、ポポロさんオリエンス家と言いましたか……?
「えええぇ!!??ボポロさんってあのオリエンス家のお貴族様だったんですか!?」
「ええ、そう言いましたね」
私みたいな一般庶民では、一生お目にかかることがないと言われている四方守護者の家系のお貴族様……、その一人が今、目の前にいるなんて……考えただけで汗が止まりません。
「そう固くならないでください、ミアナさん、それに、私はもうオリエンス家とは縁を切っておりますので今は貴族ではないですよ」
「そっ、それでも出身がお貴族様だなんて……」
気づかない間に粗相をしていないか心配です。
うぅ……ボポロさんが気にしてなくても私が気にするんですよ……。あれ、でもおかしくないですか。
「私、そもそも貴族じゃないですし、四方守護者や罪域君、ましてや魔王様の血筋ともなんの関係もありませんよ?」
「────あなたが気絶している間に履歴書などを閲覧させていただきましたが、どうやらそのようですね」
ふぅむ、今の話を整理すると、通常ならば先ほどボポロさんが挙げた一族の人たち以外は、【小夜の花園】に入った時点で呪いが発動するはずですが、なぜか私だけ引っかかってないと……、謎は深まるばかりですね……。
「それと、あなたが魔王城内に侵入した刺客という可能性も浮上しましたので、一応記憶を探る魔道具を使用させていただきましたが、不審な点はありませんでした。勝手な真似をしてしまい申し訳ございません」
「そうなんですか?でも、それで無実が証明できたのならよかったです」
冷静に今の状況を考えてみれば私すごく怪し過ぎませんか?ボポロさんが私を気絶させたのも、納得できるような気がします。
「さて、最上階につきました。あなたにはこれからこの場所で働いてもらうことになります」
それから少し階段を登った後、ボポロさんがそう言って階段の先にある豪奢な彫刻を施してある扉の前で立ち止まりました。
え、でも……、
「さっきボポロさん【小夜の花園】に満ちている呪いは塔の最上階から出ているって言ってませんでしたっけ?」
「ええ、そう言いましたよ」
ボポロさんが間髪入れずに肯定しました。
ということは、
「私の仕事は、この塔から流れ出ている呪いの元の管理ということでよろしいのでしょうか?」
私がそう聞くと、ボポロさんは目を細めて、「厳密には違いますが、やることとして間違ってはないですね」と言い、扉を開けました。
「どうぞ」
ボポロさんが扉を開けて私の方に目を向けています。
私はおそるおそる部屋の中に入りました。すると、そこには予想外のことが待ち受けていました。
「────え?」
てっきり私は、最上階の部屋の中には、大きな呪印もしくは呪物の類いが
けれども、実際にそこにいたのは、呪印でも、呪物の類でもなく、綺麗な紫色の髪を靡かせる、一人の魔族の少年でした。
「────遅いぞボポロ、それで、侵入者とやらは捕まえ……!?」
「ただ今戻りました。おぼっちゃま」
ボポロさんは窓辺に腰掛ける男の子に礼をしてから私に視線を向け、口を開けてこう言いました。
「ミアナ・コットン、あなたに命じます。本日より、魔王様のご子息、アドル様の
なんか今衝撃的なこと言われませんでしたか?
魔王城はブラックでホワイトな最高の職場です!〜勤務初日にやらかしたら魔王様のご子息様の従者になりました!なんで!?〜 御厨火花/小鳥クリエイト @syousetsuwoyomitai
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