第6話 なんでそんなに具合ばっかり聞いてくるんですかっ!?

「──ですって!?────だというのですか?」

「──そうじゃ、────信じ難いが──」


 んん……誰かの声が聞こえますね……。

 どちらも焦っているような声色です。一人は朝に聞いた先輩の列の一番前にいた人と同じ声です。確かお名前はイータさんでしたか。

 ふぁぁ……それにしても眠いですね。どうやらぐっすり眠っていたようです。

 私はそのまま、瞼をゆっくりと開けて周りの様子を確認します。


「──っっ……眩しいです……」


 ちょうど窓から陽が直接当たる場所で寝ていたのか、開眼してすぐにお日様と目があってしまいました。

 眩しくて目がしぱしぱしています。


「おや、お目覚めのようですね」


 突如、頭の上に私の顔を覗き込むようにしてお爺さんが現れました。そのおかげか、陽の光が遮られ、周りがよく見えるようになりました。


「おはようございます……ってあぁ!!」


 お爺さんの顔を直視した瞬間、起きる直前にあったことを全て思い出しました。

 綺麗な花園に誤って転移してしまったこと、そして、目の前にいるお爺さんに気絶させられたこと。

 私はすぐさま寝かせられていたソファから飛び降り、部屋の隅に設置された本棚を背に、お爺さんとの距離を取りました。


「ボポロ、あなたが乱暴に連れてきたせいで警戒されてしまってますよ」


 イータさんはジトっとした目でお爺さん、いえ、ボポロさんを、腕を組んで横から見つめていました。


「うっ……そ、それはそうじゃが、あの場ではあれが最適じゃったと思うての……」


 あれが最適!?それ正気で言ってるんですか!?正気だとしたらかなりヤバい人ですよこのお爺さん!

 でも、私を気絶させて運ぶのがあの時の最適ってどういうことなのでしょうか。私とポポロさんがあったのはあそこが初めてのはずなので、恨みなど買ったりはしてないはずなのですが。


「はぁ……これだから"傭兵"は……」


「"元"、じゃがな、今はしがない"老執事"じゃ」


 二人の話に耳を傾けてみても、何について話をしているのかさっぱりわかりません!

 というかこのお爺さん元傭兵だったのですね。だとしたらあんなに素早く動けていたのも納得です。いつの間にか私の視界から消えてましたからね。


「それで、ミアナ・コットン、あなたが【小夜さよの花園】に足を踏み入れたというのは本当ですか?」


 イータさんがため息混じりにそう聞いて来ました。ですが、


「えと……、【小夜の花園】ってなんですか?」


【小夜の花園】とはなんのことか分かりません。どこですかそれ。

 私が聞き返すと、ボポロさんが「あなたと私が出会ったあの花園のことですよ」と説明してくれました。


「へぇ〜、あの花園ってそんな名前なんですね、なら、その【小夜の花園】?に入りましたよ」


「…………、本当に【小夜の花園】に入ったのですか……、それで、具合は……」


 私が花園に入った確認が取れると、イータさんは何かを心配するような口調でそう聞いてきました。


「……先ほどそちらのボポロさん?にも聞かれましたけど、なんで具合を聞いてくるんですか、別に不調なんて起きてないですよ」


 私が警戒しながらそう話すと、イータさんは目を閉じて、「わかりました」と答えて私の前に歩いてきました。


「な、なんですかっ!また気絶させる気ですか!」


 でも、今は本棚を背にしている状況、私の視界から消えて気絶させるのは困難なはずです。同じ手は二度もくらいませんよ!さあ、どこからでもかかってこい!


「もしかしてまた気絶させられるとでも思いましたか?……はぁ、私はそこにいる、傭兵とは違うのでそんなことはしませんよ」


 そんなことはしないって言うことは、できるけどしないってことですね、怖い。

 では、いったい何をするのでしょうか?


「ミアナ・コットン、使用人長バトラーの私が命じます。あなたにはひとまず一週間ほど、使用人としての通常業務の一切をしてもらいません」


 え、使用人としての通常業務を一週間一切しない……?それはまさか、


「まさかあの場所に入ったから、謹慎処分ってことですか!?」


「違います。あなたには特別な仕事を一週間ほど試用してもらうことになります。それから先のことは後々、私が判断します」


 違うようです。よかった……。ん?でも特別な仕事ってなんなのでしょうか?

 私がそう胸を撫で下ろしながら考えていると、イータさんは何やら緊張した様子で杖を取り出しました。


「今から転移魔法を使って、これからあなたを一週間転移します。準備はいいですか?」


 ちょっと何言ってるかわかりません。

 え、働いてもらう場所ってどこですか?魔王城内のここじゃないんですか!?

 それに、よくよく考えたら花園に入っただけで私の働く場所が変わるなんておかしいです。絶対何か裏がある気がします。

 ですが行かなかったら行かなかったで問題が発生しそうな気がします。


「あの……それでイータさん、私はなんの仕事をすればいいのでしょうか?」


「それは着いたから説明してもらってください。では行きますよ」


 イータさんは私に仕事内容を説明せずに転移魔法を展開しました。

 それにしても、なんで仕事内容を教えてくれないのでしょうか?


「どうぞ、こちらへ」


 ボポロさんが手を伸ばしてきます。……もうこうなったら、


「ええいっ、ままよ!」


 もうどうにでもなれです!

 迷っている時はまず飛び込んでみるのが大事だと私のお母さんも言ってましたからねっ!


 イータさんの近くに小走りで移動すると、光が私を包みました。陽の光より眩しいです!


 次に目を開けると、どこか暗い場所にいました。いきなり暗いところに来たせいか、周りがよく見えません。


「────うっ……」

「なんですか!?」


 突然、近くから呻き声が聞こえます。

 この声はイータさんでしょうか……。はっ、まさか先ほどの転移魔法で魔力が尽きてしまったのでしょうか。もしそうなら一大事です!


「イータさん!大丈夫ですか!?返事をしてください!」


「──ロ、わた──先──る」


 途切れ途切れですか声が聞こえてきます。どこですか〜、イータさ〜ん。

 手探りでイータさんの声のした方へゆっくり歩いていきますが、未だにどこにいるのか把握できていません。

 すると、突然辺りが光に包まれ、一瞬だけ周りの様子が見えましたが、イータさんがいないことに気づきます。

 急にイータさんがいなくなったことに困惑していると、近くでポウと灯りが灯されました。


「ミアナさん、私です。ボポロです」


 どうやらボポロさんが炎魔法を使って灯りをつけたようでした。少し熱いですね。


「…………、ミアナさん、ここがどこかわかりますか?」


 急にボポロさんがそう聞いてきましたが。


「ここがどこかですか?……わかりません……」


 私はどこに転移してきたのでしょうか?

 うーんと唸りながら考えてみますが、さっぱりわかりません。


「正解は、【小夜の花園】の中に一つだけ位置する塔の一階です」


 ボポロさんはそう言って、上の階に繋がる階段に足をかけていました。

 ────────────────────


 tips:私は何の仕事をすればいいのでしょうか……?というかほんとに気絶させる必要あったんですか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る