第5話 やらかしていましました……
魔王城の名に相応しい黒色の城門をくぐり、魔王城の中に入ると、まるで闇に呑み込まれるような感覚の支配する奥の見えない真っ暗な廊下が広がっていました。
物音ひとつ聞こえず、同期の誰かが息を呑む音が鮮明に聞こえます。
それほどまでに、私たちはその景色を見入っていたのです。そして、その静寂は同期の誰かの咳声によって遮られました。
「魔王城に初めて入った人はみんなこう言うわ、"文字通り、息を忘れてしまった"ってね」
マーナ先輩の声が聞こえた途端、自分が息をしていなかったことに気づきました。危うく窒息死しかけていました……。
「魔王城はこれ以外にも危険が危ないかしら、十分に気をつけるのよ」
メアリー先輩はそう言ってカツカツと靴音を鳴らして廊下の奥へと歩いて行きました。私たちはそれに無言でついて行きます。それにしても危険が危ないってどう言うことなんですかね?
そう思いつつも、声には出しません。
「それじゃ、みんなに魔王城の危険さを知ってもらったところだし、ここからは基本的な仕事内容についてさらっと教えていくわ」
マーナ先輩はそう言って杖を取り出しました。
「今から転移魔法を使用するから、一箇所に固まってくれるかしら」
マーナ先輩って魔法も使えるんですね、すごいです。私たちはメアリー先輩を中心に一箇所に固まりました。
「じゃあ、行くわよ」
マーナ先輩って魔法も使えるんですね、すごいです。私たちはその指示に従い一箇所に固まりました。
結構ぎゅうぎゅう詰めですね、あ、今私の足を踏んだのは誰ですか!?痛いですっ!
「じゃあ、行くわよ」
マーナ先輩は杖を振り上げて何か呪文のようなものを唱えました。
綺麗ですね……。っとと、押さないでください!だから押さないでくださいってばっ!こうなったら……、よし、一旦離れて再度固まれば────。
次の瞬間、眩い光が私たちを包み込むと、視界が真っ白になり、光が晴れた時には違う場所に転移していました。
「あれ?みなさんは……」
周りをきょろきょろと見回しますが、先ほどまで一緒にいた同期の皆さんや先輩たちが一人もいません。
「あ、あはは……、これは……やらかしちゃった感じですかね……」
おそらく転移直前に同期の皆さんの固まりから一時離脱したことが問題だと思われます。
────完全に私がやらかした感じですね……。
あそこで無理矢理にでも固まっていれば、今頃は仕事の確認をしていたでしょう。
「早く合流しないと絶対メアリー先輩に叱られますね……」
集団から逸れてしまった時点で怒られることは確定してそうなのですが、それはそれとして。早速移動を始めたいのですが……。
「ここ、どこなんでしょうか……?」
周りに広がるのは、魔王城を取り囲む黒い塀、近くにはどでかい塔があり、その周りには多種多様な花が咲き誇る、庭園というよりは花園という言葉の似合う、草原の一角をそのまま持ってきたような魔王城には似つかわしくない丘がありました。
あの塀があるということは魔王城の中だということは確実なのですが、なにぶん私は魔王城内の地図も持ってないですし、ここがどこで、どうすれば城内に戻れるかもわかりません。
魔王城の方を見上げてみますが、どこにも扉はなく、塀と魔王城の間に挟まれて出られないことになっています。
「道を聞こうにも誰もいないみたいですし……、うーん」
考え込みますが、決定的な作戦は全く思いつきません!
どうしましょうか……。
「────いかがなさいましたか?」
突然、後ろからしわがれた声が聞こえました。
聞き間違いかと思いながら振り向くと、そこにはいつのまにか綺麗に仕立てあげられているスーツを着た、白髪に目の細い華奢なお爺さんが立っていました。
人に出会えてよかったです!これでここから出られるかもしれません!
「ここに入るのは容易くはないはずです。して、あなたは何者ですか?」
……警戒されてますね。
ですが、別に後ろめたいことはないので、正直に名乗ります。
「あっ、えと、私は本日より魔王城の使用人となったミアナ・コットンです。それであの……、転移魔法の不具合でこんな場所に来ちゃって戻れなくなったんですけど、どこから戻ればいいんですかね?」
私が自己紹介とともに今の状況を、簡単に説明すると、お爺さんは顎の髭を撫でて「ほう……」と何か思案げに私を見つめていました。なんでしょうか?
「────ミアナ・コットンさんですか、覚えておきましょう────ところで、具合の方はいかがですか?」
「具合……ですか?別にいつも通り元気ですけど、それがどうかしましたか?」
急に具合を聞いてくるなんて変なお爺さんですね。
「それは本当ですか?我慢してないですか?頭痛や眩暈、腹痛、また、精神的に病んでしまわれたりなどはないですか?」
なんかすごく具合について質問してきますね。
別に不調もないですし、先ほどお爺ちゃんが挙げた症状も一切ありません。
「あの……本当に何を言ってるのかわからないんですけど……」
「…………本当に?」
「だから本当ですってば」
「本当の本当の本当に?」
「本当の本当の本当ですっ!」
私が声を張り上げてそう告げると、お爺ちゃんは一大事かのように額に汗をかきながら、「そうですか、それならいいのですが……」と顎髭をいじりながら私を凝視していました。本当になんなんですか?怖いです。
「あの……それで、出口はどこですか?」
とりあえずは魔王城内に戻って先輩たちと合流したいです。
ですが、お爺ちゃんは「いいえ、それはできなくなりました。たった、今」と告げ、瞬き一つの間に私の後ろに現れ、首筋に手刀を入れてきました。
「え、それはどういう……────あ。」
次の瞬間、視界が動転して、真っ暗になりました。
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