第4話 魔王城城門前っ!

 翌日の朝、私たちは指定された通り、メイド服を着て魔王城の城門前にある広場に集まっていました。なんでも、ここで待っていれば先輩たちがいるのだとか。ですが、早く来てしまったのか、周りにいるのは同期の人ばかりで、先輩たちは一人もいません。

 まあ早く着いておくことは悪いことではないのですが。


 朝日はまだ登ったばかりで、淡い陽光が私たちを照らしています。魔王城を囲む湖に陽が反射して、キラキラ輝いているのが見えます。綺麗ですね。


「ちょっと寒いね」


「そうですね……うぅ……それに風もかなり吹いてますね」


 私とナノアさんは体をブルブル震わせて周りの様子を伺います。

 総勢おそらく80名ほど、私の同期となる人たちです。ぜひとも仲良くしたいところですね。


「せ、説明をする先輩はいつになったら来るのかな……」


 私とナノアさんの体で自分を隠しているアメルリさんが、脇から顔を覗き出してキョロキョロと辺りを見回しています。

 ふーむ、そろそろ時間のはずですが……一向にそれらしい人が見えませんね……。


「そろそろ来るんじゃないですかね?」


「そうかな……?」


「あ、見て!」


 ナノアさんがそう言って魔王城の城門に指を指すと、ゆっくりと魔王城の城門が、キキィと開く音が辺りに響き渡りました。

 扉の先には、私たちと同じくメイド服を着た使用人の人たちが十数人、隊列を組んで綺麗な所作で並んでいます。


「あれ?あの人たちは昨日食堂にいた……」


 列の中に昨晩食堂にいたお姉さんが並んでいます。

 やはり先輩だったのですね。


「新人使用人の皆さん、魔王城へようこそ」


 列の一番前にいる貫禄のあるお姉さんが優しく、それでいてハッキリとした声で私たちに歓迎の言葉を話しました。


「あなたたちは本日より偉大なる魔王様の治めるこの魔王城で使用人として働くことになります。まずはそのことを誇ってください。そして、その誇りを胸に、魔王城の使用人として日々を勤しむように」


 新人である私たちは耳を澄ませて先輩たちを見つめます。

 先輩たちはぴくりとも動かずに綺麗な姿勢で直立し続けています。疲れないのでしょうか?

 私たちもいつかあんな風にならないといけませんね。


 そんなことを考えていると、先頭に立っているイータと名乗ったお姉さんが、二人ずつ先輩たちがつくように、一班10人ほどの班を8つ作りました。

 どうやら今日はこの班にいる先輩に仕事を教えてもらえるようです。


「あ、私とアメルリちゃんは同じ班だ」


 次々と班分けがされていく中、ナノアさんとアメルリさんは同じ班になりましたが、私だけ違う班になってしまいました。

 少し寂しいですが、同じ班にして欲しいなどとわがままは言ってられません。私は私で頑張りましょう。


「あら、あなたは昨日食堂にいた子じゃない」


 突然、近くから声をかけられました。

 声のした方を振り向くと、そこには、昨晩食堂で声をかけてきた二人組の先輩が歩いてきていました。


「ふふ、同じ班になるなんて奇遇ね」


 どうやら、この先輩たちが仕事を教えてくれるようです。

 あれ?今声をかけられた先輩の後ろから、もう一人の先輩が私を見つめています。どうかしたのでしょうか?そんなことを考えていると、そのまま、先輩二人の自己紹介が始まりました。


「【第三使用人寮】所属、マーナ・セレーヌです。みなさん、今日はよろしくお願いします」


 先ほどから話しかけてくれるやんわりとした雰囲気を纏っているお姉さんは、マーナ・セレーヌ先輩というようです。

 マーナ先輩は若草色のサラサラな髪を後ろに流した、穏やかな表情で体の大きい女性で、どこか母親のような印象を想起させる先輩です。


「【第三使用人寮】所属、メアリー・フィアット、よろしくなのよ」


 マーナさんの横にちょこんと立っているのが、メアリー・フィアット先輩、私よりも身長が小さいですね。メアリー先輩は白色の髪を精巧な三つ編みを編み、ツンとした態度で私たち新入りの使用人たちを見つめています。

 それにしても、この先輩たち身長差がすごいですね……。


「…………、メアリー、まだ話していないことがありますよね」


「うっ……、あんなの名乗りたくないのよ……」


「では、あなたが名乗らなければ私が言いますよ」


 先輩たちがひそひそと何かを話しています。

 少ししか聞こえませんが、何やらメアリー先輩が隠し事をしているようです。なんでしょうか……?

 そう考えていると、メアリー先輩はため息をついて、とても嫌そうに口を開きました。


「私は"罪域君『覇階王』の従者ヴァレット"なのよ」


 メアリー先輩がそう言った瞬間、同じ班の人たちがざわつきました。


「罪域君の従者ヴァレット……?!」

「うわぁ……なんか急に緊張してきた……」

「後で質問しに行ってみようかな……いや、でも俺なんかが……」

「静かに聞けって! こんな機会もう来ないかもだぞ」


 それもそのはず、罪域君と言うのは、魔王城の階層を守る番人のことで、全員がこの魔界の中でも屈指の実力者です。

 魔王城で働く魔族にとって、罪域君専属の従者ヴァレットに召し上げられることは憧れとも言えます。

『覇階王』アロガンツ・ペルデーレ様は第一階層を担当していたはずです。その従者ヴァレット……?メアリー先輩が……?


「…………、何見てるかしら」


 メアリー先輩が私の方を見てツンとした態度でそう言ってきました。


「『覇階王』様の従者ヴァレットなんてすごいなと思いまして」


「あー、その名前は呼んでほしくないのよ、吐き気がするかしら」


「えぇ……?メアリー先輩は『覇階王』様の従者ヴァレットなんですよね……?」


「その名前を呼ぶなかしら!」


『覇階王』様との間に何かあったのでしょうか……、これ以上深掘りするのも野暮ですし、メアリー先輩に「わかりました。もう先輩の前では呼びません!」と言って話を終わらせます。


「それじゃあ仕事を教えがてら魔王城の中を案内するわ、ついてきて」


 話が終わるのを見計らっていたのか、マーナ先輩が手を叩いて私たちの注目を集めました。

 ようやく魔王城の中に入れますね……、少し緊張してきました。


 ────────────────────


tips:罪域君は全7名存在するよっ!それぞれ魔王城の階層主として自分の担当する階を支配しているんだっ!ん?僕は誰かって?はは!きっとすぐに会えると思うから、また後で話そうね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る