第3話 ここが私の部屋ですっ!

 ドアノブを捻ると、ギィと音を立てて扉が開きました。

 部屋に入ると、左の端っこに小さなベッドが置いてあるのが見えます。今日はあれを使って寝ましょうか。部屋の奥には出窓があり、外の様子が見えるようになっています。部屋の左側にはからの棚が置いてあったりと、最低限生活できるだけの家具が置いてありました。


「今日からこの部屋が私の部屋なんですね……」


 自分の部屋、なんていい響きなのでしょうか。

 実家では妹たちと同じ部屋だったため、個人の部屋というものがなかったもので、少し感動してしまいました。

 それに、この寮は全部屋にお風呂までついてるなんて……さすが魔王城と言ったところでしょうか。


「ふぅ、ようやくですね……」


 トランクケースを床に置き、ベットの上に仰向けに倒れると、ぼーっと天井を見つめながら、いつの間にかそう呟いていました。

 魔王城は私の就職先の第一志望だったので、合格したと言われた時は嬉しさのあまり夢のような気分で実感が湧きませんでしたが、今日魔王城に来てみて、ようやく合格したのだという実感が湧きました。

 でも、それと同時に、自分はちゃんとここで働いていけるのか、などの不安が私の心を襲ってきました。


「これまでずっと頑張ってきたんですから、これからも全力で頑張りましょう」


 深呼吸しながらそう呟くと、なんだか力が湧いてくるような気がします。

 やっぱりネガティブなことを考えるのはあまり良くないですね。少し弱気になってしまいました。

 一度このことを考えるのはやめましょうか。


「とりあえず荷物を整理しましょうか」


 私はそう呟いてから「よっ」とベットから起き上がり、家から持ってきたトランクケースを床に開けました。トランクケースの中を覗き込むと、暗い空間があります。

 私がそこに手を伸ばすと、手に吸い付くように掃除道具が出てきました。

 このトランクケースの中には亜空間が広がっているそうで、荷物が大量に入ります。容量はドラゴン一匹分くらいなので、家から服や家具などの荷物を色々詰め込んできました。


 その後、部屋の中を一通り掃除して、しばらく家具のレイアウトを決めていきました。


「ふぅ……こんなところでしょうか」


 五時間ほど過ぎた頃でしょうか、私は右腕で額の汗を拭きながら部屋の中をぐるりと一周見回します。

 部屋の奥にある出窓付近には、本を読んだりお菓子を食べるために使う丸テーブルと小さな椅子をそれぞれ一つづつ置きました。その下には白いカーペットを敷き、出窓には薄い白色のカーテンをかけておきました。


 ベットは位置を変更せずに部屋の左端に置いてあります。ですが、ベットの天井には吊り下げシェルフをかけて、観葉植物を三個ほど配置しました。

 結構高い位置にあったので机や椅子を土台にして取り付けましたね。

 ベットの後ろにはオープンシェルフ、機織り機を順番に置いてありますが、オープンシェルフには、今は時計以外何も飾っていません。


 これが部屋の右側の様子です。

 部屋の左側にもともと置かれていた棚には、実家から持ってきた本を数冊置き、その横に設置した大きいロッカーの中には私の私服や仕事で使う服などを綺麗に入れておきました。端っこの余ってしまったスペースには、大きな観葉植物を設置しています。


「少し疲れましたね」


 私はそう呟いて出窓前に配置した小さな椅子に座りました。

 出窓に目を向けると、外はもう暗くなっていて、いつの間にか夜になっていたことに気づきます。ここに来たのがお昼すぎなのでかなり時間が経っていますね。


「……今何時でしょうか」


 呟きながらオープンシェルフに設置した時計に目を向けます。


「えっと、十時……?ってもうこんな時間……ぁあ!!早くしないと夜ご飯食べられなくなるんじゃないですか!?」


 この寮では決まった時間に食堂に行くことで食事をとることができます。それすなわち時間が過ぎてしまえばご飯が食べられないということ。

 ────あぁぁあ!確か食堂が閉まるのは十二時ごろでしたね!今気づいてよかったです!!


 私は慌てて自分の部屋の扉を開いて廊下に出ました。

 すると、何やら文字の書いてある紙が部屋の前に置かれているのを見つけました。


『ミアナちゃん忙しそうだから先に食堂行っておくね ナノア&アメルリ』


 他の二人はいつの間にか食堂に行ってしまっていたようです。

 この文章的に一度私の部屋の扉を開けたのでしょうか……?全然気づかなかったです!


「そっ、そんなことより早く食堂に行きましょう!」


 そう一人言を呟きながら、私は食堂へと駆けて行きました。

 食堂につくと、やはりこんな時間に食堂に来る人は珍しいのか、二人ほどしか人がいませんでした。


「あら〜♡ようやく来たのねミアナちゃ〜ん♡」


「あ、田中ちゃん!」


 私が食堂の中に入ると、頭を持った田中ちゃんが微笑みながら私に近づいて来ました。


「新人ちゃんはミアナちゃんで最後ね、遅かったじゃない」


「えへへ、家具のレイアウトを決めてたらこんな時間になっちゃってて」


 頭の後ろをかきながら田中ちゃんに、にへらと笑いかけると、田中ちゃんは、「そう、危ないことをしてないのならいいわ、さ、そこに座りなさい、すぐにあったかい食事を用意してくるわ」と言って厨房に戻って行きました。


 そのまま私は食堂の空いている席に座り、お冷やを飲んで一息つきました。


「うふふ、よっぽど疲れたのね」

「初日から疲れ過ぎかしら」


 近くの席に座っていた二人組が私の方に目を向けてそう話しかけてきました。

 お二人は先輩でしょうか?そのまま二人は空の食器が乗ったプレートを持って立ち上がりました。


「頑張るのはいいことだけど、頑張り過ぎちゃダメよ、明日の魔迎会でには体力を残しておくことも大事だからね」


 二人のうち、大きい先輩の方が、にこりと微笑んで厨房の方へと歩いて行きました。選ばれるとはどう言うことでしょうか?

 ちょっとよくわかりませんが、とりあえず今は田中ちゃんが運んできた夜ご飯を食べるとしましょうか。


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 tips:【第三使用人寮】にはミアナを合わせて12人の同期が入寮したよっ!同期いっぱいだねっ⭐︎

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