わたしを終わらせたのは、あなた

永久保セツナ

わたしを終わらせたのは、あなた(1話読み切り)

 Kくんへ。


 私達が出会った日のこと、覚えてる?

 あれは桜がとても綺麗な春の日のことでした。

 会社のお花見で強制参加させられていやいや公園に来たけど、あなたに出逢えたから会社に感謝してる、って言ったら変かな。

 舞い散る桜吹雪の中で池を見ながら佇んでるあなたに、私は見とれてしまったのです。

 私、池に向かってスマホを構えてるあなたに、「何を撮ってるんですか」って声かけたよね。

 そしたら、池に亀とかカモとか、色んな生き物がいるのを初めて知ったの。

 私、あの公園を結構通るんだけど、全然気づかなかった。

 あなたのおかげで、世界を知ることができる感覚って、なんだか不思議だった。


 ごめん、やっぱり変なこと書いてるよね、私。

 この手紙を書きながらあなたとのことを思い出すと、だんだん筆が乗ってきちゃう。


 それで、私が逆ナンしたような形で連絡先交換して、デートして、付き合って……。

 すごく、すっごく、幸せだったなあ。


 特に、夏が一番楽しかったかも。

 海に行って水着をお披露目したり、花火を一緒に見に行ったり……。

 花火に照らされたあなたの横顔を見るのに夢中になって、実は花火を見てなかったのはちょっと恥ずかしいな。

 私、あなたがいてくれれば、他に何もいらないと思ってた。本気で、そう思ってたの。


 秋になって、あなたは「仕事が忙しい」って言い訳で、私を避けるようになったね。

 どうしてそうなったのか、そのとき私はわからなかった。

 ただ、「無理しないでね」って気を使うことしかできなくて、でも寂しかった。

 私の愛が重すぎたのかな。それとも、そういうのは関係なかったのかもしれないね。

 あなたの手の温もりが前よりもっと愛おしくなった肌寒い季節、でもあなたはいない。

 あなたが仕事を言い訳にして私から逃げていた間、私がどんな思いであなたを待ってたか、あなたにはわからないんだろうね。


 私があなたに裏切られていたと知ったのは、今年の冬に入ってからだった。

 私、見たよ。知らない女の手を自分のコートのポケットに入れて温めているあなた。

 女が腕を絡めて、二人の唇が近づいて……。

 ああ、本当に、思い出しただけでも汚らわしい。

 私はあなたを許さないよ。

 だから、こうしてあなたの部屋に合鍵で入って、ここで死ぬことにしました。

 これが私の復讐です。全部あなたのせいです。

 この部屋が事故物件になって、あなたはここで暮らし続けるのかな。

 引っ越しても無駄だよ、絶対についていくから。

 あなたは無責任な男だから、きっとこの遺書も処分しようとするんでしょう。

 だって、百パーセントあなたのせいだもんね。

 この遺書を見られたら、あなたは言い逃れできない。

 でも、そうはさせない。

 この遺書はコピーして、私の実家とあなたの実家に全く同じものを送りました。

 今頃、みんな大騒ぎだろうね。

 これで、私の復讐は成就します。

 私は、死んでもあなたから離れない。

 あなたは、一瞬でも私を忘れることができない。

 そうやって、一生後悔しながら生きていてほしい。

 あなたが死んだら、一緒に地獄までついていくから、安心してね。


 それでは、良い余生をお過ごしください。

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