長袖

古間木紺

長袖

 達海は長袖が嫌いだった。正確に言えば、惣一郎の着る長袖が。

「タッツミーの嫌いな季節になったねぇ」

「……うるさい」

 クッションに頬杖をついたまま、惣一郎の顔から視線を外した。当の本人は、萌え袖にしてココアを飲んでいる。

「秋冬は服のバリエーションが増えていいよね。ニット、ジャケットスタイル、パーカー、エトセトラ」

 どれを着ても似合うのはよく分かっていた。惣一郎は骨格がしっかりしているから、重めの服も着こなせてしまう。そういう彼も好きではいる、けど。

「半袖なら腕の筋肉は隠されないし、袖から覗く脇とか最高だろ」

「うわ、エロ親父みたーい」

 いやーんと惣一郎がオーバーリアクションを取る。じゃあそのスケベジジイと同棲しているのはどこの惣一郎なんだろうな。ぎろりと睨むと、へらりと笑っている。

「タッツミーはもっと大人になろうね」

 ココアの入ったマグカップをサイドテーブルに置いた惣一郎は、達海のクッションもスムーズに奪った。達海は距離を詰められ、気づけばソファの中で動けなくなっていた。物理的に惣一郎しか見えない。

「長袖なら、お前は俺の体を独り占めできるよ」

「……は」

 惣一郎が自身の袖を捲る。前腕にはほくろの上の鬱血痕、上腕には筋肉を食うような噛み跡。犯人は俺です。達海が項垂れていると、惣一郎はにこりと笑った。

「これ全部、半袖だとできないことでしょ? 俺の中にお前がいた痕跡、残していられるよ」

「……ほんと、お前ってやつは」

「どう? 長袖もいいもんでしょ?」

 きらきらと見つめられる。惣一郎と同じ理由ではないけど、前言撤回しても良いと思った。

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