第3話 第二の異変、町を走る

管理小屋で正体不明の男を目撃した5人は、物音を立てないよう慎重に小屋を抜け出し、草むらを通って送水塔から離れた。


陽介が息を整えながら小声で言う。

「……あの男、絶対ただの役場の人じゃないよね」


太一もうなずく。

「うん。あんな物言い、普通はしない。一体“何の計画”だよ……」


健人は膝を震わせながら、今にも泣きそうな声だ。

「ぼくら……どうすればいいの……? もう無理だよ……」


茉莉は健人の背中を軽く叩いた。

「……怖いのはわかる。でも、なにかしなきゃ。本当に誰かが困るんだよ?」


直哉も小さく拳を握る。

「お兄ちゃん……これ、止められる?」


陽介は、少しだけ間を空け──

迷いを押し込めるように、強くうなずいた。


「……止める。絶対に止める。

あの人を止めるのも、送水塔を止めるのも、ぼくらにしかできない」


その時だった。


遠くの方から、町中に響き渡る大きなサイレンが鳴り出した。


ウウウウウウウウ──!!


5人はビクリと体をこわばらせ、顔を見合わせた。


「な、なに? 火事? それともまた浸水?」

茉莉が不安げに空を見上げる。


太一は耳を澄ませ、眉間に皺を寄せた。

「違う……これは避難サイレンだ。

大規模な異常が発生した時に、町内全体に鳴らされるやつ」


直哉が不安そうに兄の服をつかむ。

「また、なんか起こったの?」


陽介が答えるより早く──

町の中心部から、どよめきが響き渡ってくる。


「え、電柱が……火花!?」

「道がぬかるんで、車が動けん!」

「信号まで止まったぞ!?」


まるで悪い予感が連鎖しているように、町のインフラが次々に不調を起こしていく。


太一が目を見開いた。

「……送水塔だけじゃない。

水圧のせいで、町の他のシステムまでおかしくなりはじめてる!」


健人は半泣きになりながら叫ぶ。

「む、無理だよぉーー!! こんなの、もう大パニックだよ!!」


陽介も同じ気持ちだった。

胸がぎゅっと苦しくなる。

自分たちがあの機械に触らなければ……

でも、あの男の存在もある。


ただのいたずらじゃ終わらない“何か”が動いている。


太一が深呼吸して、みんなの方へ向き直る。

「送水塔を直接止めるのは無理だ……あの男がいる以上、近づけない。

でも、町には“中央制御室”ってのがあるんだ。

水も電気も、全部そこで監視してる」


茉莉が目を輝かせる。

「そこに行けば、全部まとめて止められるかもってこと?」


「……うん。可能性はある。

ただし、大人がいっぱいいる場所だし、子どもは普通入れない」


健人が涙目で抗議する。

「じゃあ無理じゃん!!」


太一はほんの少しだけ笑った。

「無理じゃないよ。裏口なら、僕知ってる」


茉莉が驚く。

「なんで知ってるの!? 太一くん、スパイ?」


太一は軽く肩をすくめる。

「去年、町探検の自由研究で見学させてもらったんだ。

その時、裏口の位置もついでに覚えた」


陽介は太一の肩を強く叩いた。

「太一、さすが!! 行こう!!」


直哉も元気を取り戻し、笑顔で言う。

「ぼくらが町を救うんだね!!」


健人は涙をぬぐいながら

「……もう……やるしかないんだね……」

と震える声で答えた。


中央制御室は、町外れの丘の上にある。

5人は炎天下の中、全力で走った。


雑木林を抜け、古い神社の前を通り、坂道を一気に駆け上がる。

途中で息が切れ、汗が滝のように流れる。

それでも、5人は止まらなかった。


茉莉が言う。

「こんな大冒険になるなんて、思わなかったよね……!」


陽介は笑いながら答える。

「思うわけないって! でも……楽しい!」


健人だけは本気で泣きそうだった。

「全っ然、楽しくない……!!」


ようやく制御室が見えてきたそのとき──


背後から、パトカーのサイレンが近づいてきた。


ウウウウウウ──!!


太一が振り返り、顔色を変える。

「やばい!! このままじゃ捕まる!!」


茉莉が叫ぶ。

「隠れて! 早く!!」


5人は咄嗟に道路脇の草むらへ身を沈める。

パトカーが通り過ぎるまで、じっと息を潜める。


(絶対に……大人たちに捕まるわけにはいかない)

陽介は胸の中で強く誓った。


パトカーが遠ざかる音を確認すると、

太一が小さく呟いた。


「……急ごう。異変はたぶん“まだ続く”」


陽介たちはうなずき、再び走り出す。


この夏、霧島町で何が起こっているのか──

そして、5人は無事に制御室へたどり着けるのか。


冒険は、ますます深まっていく。

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夏の五つ星 @nobuasahi7

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