終章 第4話 無血開城、回廊の守護者
~ はじめに。
ここで、再び、エリトニー城の構造や配置を頭に入れて頂くと、より楽しんで頂けると思います。コチラ https://kakuyomu.jp/users/siu113/news/16818792435413988211 これは、RPGの「ポポロクロイス物語」のポポロクロイス城で、本作のエリトニー城は、まんまこれをパクっておりますw この絵は、かなり前に作られたドット絵で、可愛らしい感じですが、構造を理解するには最適と思います。ただ、エリトニー城は、奥の塔がもう少し高くて、回廊も太いです。この絵をもとにジェミニ先生に描いて貰おうかとも思ったのですが、考えてみれば著作権侵害も甚だしいので、やめておきましたw ~
~ 以下、本文です ~
クレマンは、約束通り、エリトニー城に入った2日後、回廊を渡って、市庁舎を占拠しているゲルンハルトとリクソンを訪ねた。
ゲルンハルトは、目の前で膝をつく初老の男を
ゲルンハルトが、「フン」と鼻を鳴らして、「それで、アロイスはどうするつもりなのだ。徹底抗戦なのか?」と尋ねると、クレマンは、意外なことに、
「いえ、アロイス様は、『この首都エリトニーが戦場になり、沢山の兵士や市民が犠牲になるのは忍びない』とのことでした。ですから、今日の午後、兵の武装を解除して、全員が投降し、城を明け渡します」と答えてきた。
「ほう……、そうするのか。噂どおり、アロイスとは慈悲深い男なんだな」
「はい、その通りです。明け渡した後に、城に残っているのは、アロイス様と従者の女の二人だけです」
「はっ! アロイスのことだ。どこまで信用していいのやら。余の安全のため、兵を連れて入っていいんだろうな?」
「もちろんです。ご自由にどうぞ」
「それと、余の義兄、ダミアン総督はどうしている?」
「城からさらに海上の回廊を渡った塔の一番上、『妃の間』にいらっしゃいます。門番に鍵を持せてありますから、どうぞ案内して貰ってください」
「ほう、そうか。用意のいいことだ。これで、ようやく我が妃にも顔が立つな」 そう言って、ゲルンハルトは、ほっと安堵の息を漏らした。
と、そこに、リクソンが、
「ゲルンハルト様。入城の際は、ゲルンハルト様が2000人の兵を連れて行って下さい。私はここで3000名の兵を率いて、城から出てきたエリトニー軍と、広場のスロベニー軍を見張ります」と言ってきた。
ゲルンハルトが、「お前は来ないのか?」と聞き返すと、
「はい。私まで入城して再度裏切られたら、『袋のネズミ』で攻城戦になってしまいますから。念のためです」とのことだったので、ゲルンハルトも、
「それもそうだな。……まあ、一番功績のあるリクソンが入城に立ち会えないのは残念だが、やむを得まい。ではよろしく頼んだぞ!」と、柔らかい笑顔を向けてきた。
******
午後遅く、夕方4時になった頃、エリトニー城の城門が左右に開き、約束通り、武装解除した兵士、文官、女中、コックらが、次々と出てきた。皆、門の脇で見送っているアロイスと握手を交わし、抱きしめ、「王様……、これまで本当にお世話になりました。王様のことは決して忘れません。どうかお元気で……」と、涙ながらに別れを惜しんでいる。
8000人近くもいるので、開城には1時間以上もかかり、日も少し傾いてきたとこで、ようやくクレマンが出てきて、ゲルンハルトに「私が最後です。どうぞ中へ。アロイス様は階段を二つ昇った『謁見の間』でお待ちです。私はリクソンさんと一緒にここで待っています」と声を掛けた。
それに応じて、ゲルンハルトが回廊を渡ろうとしたとき、リクソンが「ゲルンハルト様……」と呼び止め、小声で「セシルとミシェルが出てきていません。中に潜んでいます。兵を城中に放って捜索されるといいでしょう」と耳打ちした。
一つ大きく頷いたゲルンハルトは、城に向き直り、大国の王者らしい雄大な肉体を馬上に揺らし、磨き込まれた鎧に日差しを反射させながら、威風堂々と回廊を渡る。
城の門扉は無防備に開け放ってあり、その前で馬から降りたゲルンハルトは、半分の1000人の兵に、自らの警護とセシルの捜索を、残る1000人は王妃の間のダミアンを迎えに行くよう命じた。
******
その頃、セシル、ミシェル、アラン、ステファンは、「王の間」にいた。それぞれホランドの軍服で変装している。これから、海底の隠し道を通って、クリステルの店に出、港の突端に留めてあるゲルマー商会の船で脱出する段取りになっている。アロイスの形見、「エタンのサファイア」と「英雄王のクラウン」は、ミシェルが大事に抱えている。
「ここよ」と、セシルが壁際の黒いキャビネット指差し、アランとステファンが「せーの!」と、右手にガラガラと動かすと、後ろはレンガ造りの壁になっており、セシルが、その中で一つだけ目地の入っていないレンガに爪を立てて引き抜くと、中から10個のボタンが現れた。
セシルが、母メラニー女王から教わった通りに7桁の番号打ち込み、壁を押す。
が、……開かない。
「なぜ? 打ち間違えた?」 セシルが混乱した声をあげ、
「メラニー様から何番と聞いているんだ?」 そうミシェルが問い質す。
「何番ではなくて、『セシルとアロイスの誕生日』って聞いてるの。1424年4月22日」と言いながら、もう一度「1424422」と押しても、やはり開かない。
「どうして! これじゃ出られない!」 セシルが口に手をやって
そこに、アランが「セシル様、逆では? 日付が先では?」と言うので、「あ、そうかも!」と言って、「お願い……!」と祈りながら、「4221424」を押すと、壁の奥で「カチっ」と小さな音がして、スーッと扉が開いた。全員が「ふーっ」と、細く息を漏らす。
カンテラを持って、「さあ、行くわよ!」という段になって、セシルが「あっ!」と叫んだ。ミシェルが「何だ。今度はどうしたんだ?」と
セシルも色をなして、「ダメよ! あれだってアロイスの形見だし、私の命みたいなものなのよ! ゲルマーに行ってからもどんなに役に立つか!」と返すと、ステファンが、「お、俺、取ってきます!」と叫び、セシルの「お願い! 私の部屋のキャビネットの中よ!」という声を背後で聞きつつ、部屋を飛び出し、階段を駆け降りて行った。
******
ステファンが、セシルの部屋に入り、キョロキョロして、右手のキャビネットに駆け寄り、扉を開いたところに立てかけてあった一丁のライフルケースを見つけ出す。20㎏の本体に、弾丸500発と火薬タブレット。合計30㎏もあるので、ステファンはケースの肩紐をかけて両手に抱え、急いで部屋を出て、階段を駆け昇った。
しかし、三段昇ったところで、重量に耐えかねた肩紐が「ブチっ!」という音とともに千切れ、いまにもケースが落下しようとする。
(絶対に壊せない! 落とさない!) ステファンは、ケースを抱えたまま、仰向けで階段下に転倒し、床とライフルの間に自らを挟んでクッションにする。
「グフっ!」 重い……痛い……。肋骨がボキボキと折れる嫌な音が体内から響く。
ステファンは、衝撃と痛みで、しばらく声も立てられずにスースーと息をするばかりだったが、やがて両目を「カっ!」っと見開き、「足が折れたんじゃないんだ! こんなのは幻だ!」と自らを鼓舞し、激痛に耐えながらも起き上がり、
「ああーーーーーーーーっ!!!!!」と雄たけびを上げながら、階段を駆け上って行った。
******
セシルは、王の間に駆け込んできたステファンを見て、「ありがとう、ステファン!」と労い、すぐさま「怪我してる。ライフルはアランが持って! さあ、行こう!」と、カンテラを持って3人を先導し、地下道へ続く階段を降り始めた。
しかし、丁度そこでバタバタ足音がし、階下から、「こっちが王の間だぞ! 急げ!」という5人ばかりのホランド兵の叫び声が聞こえてきた。
それを聞いて、一瞬、「ビクっ!」としたセシルが、「あっ!」とカンテラを取り落としてしまい、カンテラは、カラカラと音を立てながら転がり落ち、階段の下で燃え始めた。これでは、途中から灯りがなくなってしまう。
「ご、ごめん。足引っ張ってばかりで。……で、でも大丈夫。いくよ!」と言って、灯りを目指して一気に階段を50段降り、「ここから先は、これが頼り」と言って、右の壁のタイル目地に手をやり、皆がそれに
セシルが、「ほら、ここだけ目地がギザギザでしょ? これに沿って進めば大丈夫なように出来てる。いくよ!」と声を掛け、皆で壁を触りつつ進み始めたところで、王の間から、「抜け道があったぞ! ここから逃げた! 追うぞ!」という声が響いてきた。
暗い中、できるだけスピードを上げて、ギザギザの目地を頼りに進む。幸い、後ろでカンテラが燃えているので、多少なりとも目が慣れてきた。
そのうち、目地のギザギザが途切れたところで、ミシェルが、「あ! ハンカチが落ちてる!」とそちらに行こうとするので、「ダメ! そっちは罠なの! 槍の突き出た穴に落ちるわよ!」というセシルの制止の声が響き、ミシェルがギクッと動きを止める。
と、そこに、背後から、狭い通路に鎧や武具がキーキー
そこで、「しっ! 私たちはここから」とセシルが言って、ギザギザが途切れたところの壁を押すと、音もなくスーッと開き、「さあ、中に入って」の声と共に全員でドアから中に入り、慌てず騒がず、静かに閉め、音が出ないようにじっとして耐える。
息が切れる、心臓がバクバク鳴る。(どうか、聞こえませんように、ばれませんように) そう全員で息をひそめて祈る。
表からバタバタとした足音が近づいたが、そこで夜目が効かなくなったのか、あろうことか、いったんドアの前で止まってしまった。ドア一枚隔てて、セシルらと追っ手が向い合っている。緊張で4人の肌が泡を吹き、ミシェルとセシルがダガーに手をやる。
ホランド兵は、しばらくじっと様子をうかがっていたが、やがて、「あ! こっちだ。ハンカチが落ちているぞ!」と言って通り過ぎ、「二手に分かれているから、2対3で!」と隊長らしき兵の声がして、バタバタと通り過ぎて行った。
そして、その3秒後、表から、「グシャっ!」と槍が鎧に突き通った音がして、「あぎゃーっ!」「ギエーっ!」という、断末魔の声が通路中に響き渡り、そして、また静寂が戻って来たのだった。
4人は「フーっ」っと深く息を吐いて、「危なかった……さあ、急ごう」と、よろよろ歩を進め、突き当たりのドアを押した。表に出ると、上に続く階段のはるか先に、白い光を放つ出口が見えていた。
「ああ、クレマンが開けておいてくれたんだ……」 そうセシルが呟いて、安心したのか、細く涙を流しながら、希望の光を見上げ、皆で一歩一歩階段を昇って行ったのだった。
******
その頃、ダミアンを救出に向かった1000人の兵が、塔へと続く回廊を渡り始めていた。兵たちは、(鍵を持った男が門で待っている)と聞いていたが、塔の方向は逆光でよく見えない。
兵たちが、波の音しか聞こえない静かな回廊を進み、半分を過ぎたところで、行く手に人影が見えてきた。
しかし、そこにいたのは、門番ではなく、愛馬に跨り、愛用の黒い槍を下げた重装騎兵だった。その、微動だにせず立ちふさがる巨躯の影に、ホランド兵は眼を見開き、ざわめきが波のようにひろがっていった。
「エリトニー史上最強兵士」マチアスは、「おう、来たなホランドども! 俺はダミアンに恨みがあるんだ! 助け出したかったら俺を倒してからいけ!!」と、海を揺るがすような大音声で雄たけびを上げた。
その全身から立ち昇る真っ赤な強者のオーラに、ホランドの雑兵は完全に圧倒され、誰一人切りかかろうとしない。
「まったく、どいつもこいつもホランド兵は臆病者よ! このマチアス将軍の首を取ったら家門の誉れだぞ!」 そうマチアスが声をあげて挑発する。
ホランド兵は、最初に誰が突撃するか顔を見合わせていたが、そのうち、手柄欲しさからか、一人の大男が「おうっ! 俺が相手だ!」と呼応し、蛮勇を振るって距離を詰めた。マチアスは、ニヤっとしながら、全く動かず、ただこれ見つめている。
雑兵は、「食らえっ!」と叫びながら単槍を突き出したが、信じがたいことに、その時には既に「ザクっ」と心臓が貫かれていた。何が起きたのか、刺された本人も理解できないほどの早業。
マチアスは、「うおおおおっ!」と呻きながら、そのまま規格外の
顔を真っ赤に上気させ、眼を血走らせたマチアスが、振り返って、「さあ、次だ! どんどん来い!!」と叫び、その声が、びっしりと回廊を埋めた兵の上に浪々とこだましたのだった。
エリトニー興亡記 ~美しき王妃の血脈と、駆け抜けた赤と青の双星~(カクコン11用統合版) 小田島匠 @siu113
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