第4話
..........
言葉を失った。久しぶりに会うママは、私には見せたことないくらい穏やかな顔で動かなくなっていた。
どうしていなくなってしまったの。
なんで、私を置いていくの。
私どうすればいいの。
突然、子供のような感情が湧き出した。
あれ、最後に泣いたのはいつだろ。
涙を流しながら、ちょっと考えてしまった。
でも、私の人生においては考えるということは冷静になることで、そうなってしまったら絶望が押し寄せる。私が幸せな瞬間って結局あったのだろうか。
おかしくなるくらい泣いた。
トイレで吐いてしまった。
でも、これはママのせいじゃなかった。
私は、ママが死んだ日に自分がママになることを知ってしまった。
ちーちゃんとたくさん、話した。
子供は、堕すことにした。
どうすれば、よかったのか。
私が、ばかだからダメなのか。
私は中絶をして、数日後に母親の葬式を行なった。
斉藤さんが、線香をあげにきていた。
私の初体験。初めての男。この私の「ばか」を全て作ってしまった人でもある。
「里奈子ちゃん、大きくなったね」
斉藤さんは子供を抱えて、奥さんを横に連れて私に言ってきた。きもちわるい。死んで欲しいと思った。
ママが残した携帯を見た。携帯には、付き合っている彼氏とのやり取りが残っていた。
私はこんなにボロボロなのに、ママは住み込みで働く事務員でちゃんと働いて、彼氏と静かに暮らしていた。そんな平穏を神さまは許さなかった。
ママは、くも膜下出血で倒れて死んだ。
少しだけ、ざまぁみろという気持ちが湧いてしまった。
私には、ちーちゃんしかいなくなった。
ちーちゃんは、この町に飽きたから東京へ行こうと言ってきた。私ももう、この町に未練はない。何も残っていない。ママは死んで、初体験の男は家庭を持ち、愛してた男は警察に捕まった。早く消えてしまいたかった。
ちーちゃんと持っているお金を集めて、最低限の荷物を持って、田舎道を歩いていた。秋の風が吹いて少しだけ気分はよかった。私たちの前に、一台の軽トラが停まった。中から、おじさんが出てきた。
「良かったら乗ってく?」
ちーちゃんと目を見合って、おじさんに頷いた。
私はいつもみたいに、おじさんの目を見て
「おじさん、エッチなことするから、駅まで乗せて」
と言ったら、おじさんは別にいいよ。と笑って言いながら軽トラの後ろを開けた。
初めて、私の価値をスルーされた。
ちーちゃんもキョトンとしながら、おじさんの手助けをしてもらい、私とちーちゃんは軽トラの後ろに乗った。
田舎道を駆け抜け、町が通り過ぎていく。
秋の風がより一層気持ちよく、森の匂いがした。
生まれて、育った街が遠く離れる光景を見ていたら、自分の人生がプレイバックされるように頭の中で再生された。もう同じことは文字にしないが。
なんだか、疲れたな。凄く涙が止まらなかった。ちーちゃんは私の肩を寄せて優しくギュッとしてくれた。
なんでこんなに、なったのかな。
私の人生は正解だったのかな。
ばかじゃなかったら、ちーちゃんにも会えてないのかな。
ばかじゃなかったら、「普通」になれたのかな。
大人にならなかったら、ばかだったことを理解しないで済んだのかな。
わからないものは、わからないままでよかった気もした。
でも、ばかだから生き延びてしまった。
ママを止める勇気がなくて、ごめんなさい。
ママを引き止める覚悟がなくて、ごめんなさい。
斉藤さんを奪って、ごめんなさい。
斉藤さんを振り払えなくて、ごめんなさい。
優希さんを、誘惑してごめんなさい。
ママを追いかけて、ごめんなさい。
ちーちゃんにもっと早く出会えなくて、ごめんなさい。
ママを助けられなくて、ごめんなさい。
ママを死なせて、ごめんなさい。
子供を産む勇気を持てなくて、ごめんなさい。
全部
ごめんね、わたしがばかだから
ちーちゃんは私を抱きしめながら言った
いいじゃん。ばかで。
次の日、軽トラで駅から降りて電車に乗り
私たちは東京に着いた。
ごめんね、わたしがばかだから 紅恋地獄 @Lovehell
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