なぁ~んも書けません!!

霧原零時

今日もカーソルだけが元気に点滅している――。

十二月から始まる、カクヨムコン11に向けて、

私は十月中旬から『現代ファンタジー』を書き始めた。


二週間かけて、第6話まで書けたところで筆が止まった。

書いた文字数、およそ二万字。


二週間が過ぎたある日。

テレビから何度も流れてくる『果てしなきスカーレット』。

その映像をぼんやり眺めていて、ふと思った。


――異世界ファンタジーの女性主人公も、ありなんじゃね?


そう思った瞬間、そっちを少しだけ書き始めた。


最初の一週間は良かった。

勢い任せに、毎日1~2話くらいのペースで進んでいく。


だけど、それも第10話で止まった。

文字数は約二万三千字。


……なんでだろう。


前から、私は“毎日書けるタイプ”じゃない。

プロットなんて作っていないので、

気が乗らないと一行も書けない。


その“創作の世界”に入り込めないと、そもそも何も書けない。


いつものBGMを流して、机に向かって、

パソコンを開いて、書きかけの画面を出しても……

二時間そのまま、ただ眺めているだけのこともある。


「なら、第1話から読み返せば、また世界に入れるかも」


そう思って読み直す。

途中で気づいた誤字を直し、言い回しを少し整えてみる。


――で、書きかけの画面に到達する。


……でも、やっぱり続きのシーンは浮かばない。


無理に書こうとすると、キャラたちがそっぽを向く。

誰も喋ってくれないし、誰も動いてくれない。


そんなある土曜日、なんとなくアマプラで観た

ファンタジーっぽいアクション映画――『Risingライジング Hawkホーク』。


村人が、罪もないのに殺されていくシーン。

「弱者が踏みにじられる世界」を見た瞬間、

私の中の“女性主人公”が、ほんの少しだけ顔を出した。


その瞬間――止まっていた何かが動いた。


追加で2話書くことができた。


「書きたい」と思って書くときは、心が楽しい。

筆もするする進む。


でも、書けないときに無理して書こうとすると、

執筆ってほんとうに“苦行”になる。


・気持ちを現実から異世界へ切り替える。

・物語の中へ没頭する。

・大まかな流れの中で次のシーンをつくる。

・頭をフル回転して、自分の好きな言葉を探していく。


そういう状態が整わないと――そういう準備をしないと、私は書けない。


一つ分かったことがある。

書けないときというのは、たいてい――


物語の中に入り込めていない。


入り込めていないというか……

扉の前で、拒まれる。


そういうときは、現実の悩みや不安がつっかえていて、

物語の世界へ、純粋に飛び込めないことが多い。


さらに無理して書くと、

今までの展開とラストが噛み合わなくなったり、

書きながら「これ絶対、作者都合やん……」と苦笑いする羽目になる。


執筆は、簡単じゃない。


でもこれは仕事じゃないし、

書き上げたところで、そんなに多くの人に読まれるわけでもない。


――そう、趣味だ。


無理する必要なんてない。

楽しくないときまで書く必要もない。


だから、そんな時に私はこう言う。


――なぁ~んも書けません。


これを口にすると、ちょっとだけ楽になる。


現実のノイズが身体に纏わりつき、

物語の扉が開かないときは、

世界の景色も、キャラたちの姿も、まったく見えない。

そんな状態で書けるわけがない。


今日も書きかけのままのパソコン画面では、

カーソルだけが静かに点滅している。


十二月まで、あと一週間。

カクコンの開始には、間に合わないかもしれない。


でも、


――なぁ~んも書けません。


それでいい。

書きたくなったら書けばいい。


気長に待とう。

そうすれば、そのうちきっと中へ入れてもらえる。


そう思って、今週末は――


「爆弾」でも観にいこう。


それでいい。


頑張らない自分を許してあげよう。

ほんと、それでいい。

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