クレームの電話

七乃はふと

クレームの電話

 派遣でサポートセンターで働いていた事があるんです。

 かかってくるのは商品に対する質問がメインなんですけど、無言電話や、こちらが女だと分かると卑猥な言葉を言って一方的に切る人もいました。

 気持ち悪い電話もありましたけど、時給も良かったし、次第に慣れてきたのかイタズラ電話も気にならなくなっていたんです。

 ある日の事でした。その日のシフトはちょっと憂鬱だったのを覚えています。

 一緒になったのが私より年上で先輩の女性で、お局って言うんですか。

 それなりに仕事は出来るんですけど、お小言が多くて、上司も困った顔してましたね。

 特に気に入らないお客様の電話に対して、凄い強い言葉を使うんです。

 上司がオブラートに包んで注意しても、全然直す気配ありませんでした。


 だから、あんな事が起きたのでしょうか?


 その日は午前中にクレームが一件あっただけで静かな日でした。

 私はお昼を食べに外出、例の先輩は残ってお弁当を広げていました。

 帰ると、あからさまに貧乏ゆすりしていて、イライラしているのがすぐ分かりました。

 出来るだけ波風立てないように席について業務を進めていくと電話が鳴ります。

 先輩がいつも通り猫撫で声で対応するのですが、突然言葉を切ると、相手の言葉を聞くように耳を傾けているんです。

 何も言わず、叩きつけるように受話器を置きました。

 暫くするとタイミングを合わせたように複数の電話が鳴り出して、いつもは奥にいる上司も対応に追われるようになったんです。

 また電話が鳴ったんですが、みんな受話器を耳に当てて出れません。唯一空いていたのが先輩だけ。

 でも先輩は両手を組んだまま出ようとしません。ずっと鳴り続けています。あまりにも長く鳴るので受話器の声も頭に入ってこないほどでした。

 痺れを切らした上司が出るように促すと、先輩はスローモーションのように時間をかけて受話器を耳に当てました。

 少ししたら、ガチャンとものすごい音が室内に響き渡ったんです。

 音を出した先輩は私達の視線から逃げるように出ていってしまいました。


 それから先輩は出勤してきませんでした。お局がいなくなって、みんなリラックスして仕事をしていたのですが、一週間過ぎても出勤してきません。

 病欠や無断欠勤もしたことがなかった人なので、何かあったのかと話題になっていました。

 もしかしたら、かかってきた電話に何か関係があるのかもしれないと、上司は私達を集めて先輩が対応したと思われる三件の録音メッセージを再生することにしたんです。

 三件とも若い女性の声でした。

「し……」

 一度目はこれだけ。

「……ん……」

 二度目も一文字だけ。

「…………で」

 みんな気味悪がっていましたが、ただのイタズラ電話じゃないかと笑っていました。

 その中で私は全身に鳥肌が立っていました。意味が分かってしまった事もそうですが、周りが気づいていないことに別世界に迷い込んでしまったような気持ちになってしまったのです。


 その後、仕事を辞めてすぐ家の固定電話を解約しました。携帯も電話機能は全く使っていません。

 

 

 

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クレームの電話 七乃はふと @hahuto

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