本当は飲みに行きたいZ世代

白川津 中々

◾️

日比谷ひびや君。相談があるんだけれども」


「なんでしょうか」


「最近この、“本当は飲みに行きたいZ世代"って本を読んだんだけれど」


「真に受けて誘ってみたら煙たがられたと」


「そう! そうなんだよ! よく分かったね」


「隣で見てましたからね」


「ならば話が早い。何が駄目だったか教えてほしい」


「全部ですね」


「全部!?」


「まず、そんな凡百な、電車広告の賑やかしのような本に影響されている時点で論外です」


「あ、そう……」


「確かに若い奴らは飲み会自体嫌いなわけじゃないですけど、興味ない人間と一緒にいるのが苦痛なんですよ。ろくに信頼関係も築けてなく、かつ面白みもない高橋さんが誘おうと思ったらだいぶハードルは高くなります」


「もうちょっとオブラートに包めない?」


「いい歳して情けない事言わないでください」


「ごめん……」


「要は、普段からの付き合い方なんです。近過ぎず遠過ぎず、ある程度裁量を持たせながら指示をしっかり出して仕事に取り組んでもらって、それではじめて"今日飲まないか?"って話ができるんです」


「え? できてるくない? 裁量与えてるよ?」


高橋たかはしさんのは丸投げっていうんですよ。今時"いい感じに"とか"よしなに"なんて通じないですよ」


「あ、そうなんだ……」


「ま、詳しい話は今夜聞きましょう。いい居酒屋を見つけたんです」


「なんだかんだで、君は付き合ってくれるね」


「まぁ、タダ飯タダ酒は大好物なんで」


「あ、奢り前提なんだ……」


「いっそみんな誘ってみますか」


「え、いいよぉ。どうせ断られるし」


「もう送っちゃいました」


「え、早い」


「返ってきました」


「え、早い」


「……」


「……」


「……」


「……なんて?」


「え?」


「なんて返ってきたの?」


「聞きたいですか?」


「そりゃ……そりゃあねぇ! そんな……そんな……気になりますよぉ!」


「分かりました。ならお伝えしますが……高橋さん。ビックリしないでくださいね?」


「なに? なになに? 怖い……怖い!」


「なんと……」


「なんと?」


「今回……」


「今回?」


「参加者……」


「参加者?」


「……あ、昼休み終わっちゃいましたね。仕事しましょう」


「えー!? え、いや、えー!?」


「じゃ、答えは退勤の後」


「仕事手に付かないよ日比谷君!」


 その後、飲み会にはやっぱり誰も来ず、高橋さんは深酒に溺れ咽び泣き、僕はそれを肴に高い酒を遠慮なく頼んで飲んだ。「ちくしょう……ばかやろう……」と伏せる高橋さんは見ていて面白く、こんなに楽しいのに断るなんて、みんな馬鹿だなぁと思った。


 ……


 ……ま、本当は誘ってないんだけどね!


「ばかろう……ちくしょう……」


 すみません高橋さん……でも今僕、めちゃちゃ、面白いです……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本当は飲みに行きたいZ世代 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ