第4話 終焉

 ◆


 第二のガイアは、美しく、穏やかだった。


 だが、恒星は永遠ではない。

 千年、二千年、三千年――ゆっくりと、確実に寿命が近づいた。


 海は熱を帯び、森は枯れ始め、空は赤く染まった。

 人々は静かに悟り、眠るように大地へ還っていった。


 最後まで残ったのは、私と、王女ファルナ、そしてもう一人。

 彼女――私の「王妃ローザ」だった。


 アギトは再び動き出し、私たちは星の崩壊を背に、宇宙へ離脱した。


 ファルナの声が震えていた。


「……レオ。皆、逝ってしまいましたね」


「私たちは生き続ける。だからこそ、彼らの記憶を運べる」


 ローザは静かに頷いた。


「次の星へ行きましょう。あなたが導き、私たちが支える。それしかありません」


 三人だけの旅が始まった。


 ◆


 そして――長い漂流の末、私たちはたどり着いた。


 第3の星。


 地球。


 青い海。豊かな大気。生命の喧噪。

 しかし、今度の人類はまだ若い。文明は未熟で、争いを繰り返し、言葉の意味すら揺らいでいた。


 私たちは名を偽り、密かにその大地に降りた。

 ガイアモンドの輝きは抑え、ただ三人の“旅人”として人々へ紛れた。


 ◆


 最初に彼らへ伝えたのは――


 生きるための知識

 星と共に暮らす方法

 争いを減らすための言葉

 愛の形

 死の受け入れ方


 人々は驚き、恐れ、そして学んだ。

 農耕は豊かになり、集落は村となり、村は国へと育った。


 ある日、焚き火を見つめながらローザが言った。


「ねぇレオ……また“文明”を作ってしまっていますね。私たちが」


「人類は、文明を作る生き物だ。止められない。だが……壊しすぎない方法は教えられる」


 ファルナが微笑んだ。


「なら、今回は大丈夫。私たちは見守り、導くだけ。支配はしない」


 そのとき私は悟った。


 これは、第三のガイアではない。

 第三の“子どもたち”だ。


 ◆


 やがて人類は、私たちを「賢者」と呼び、小さな神話を作った。


 ファルナは“花の姫”と呼ばれ、

 ローザは“紅の聖母”と呼ばれ、

 私は“星の王”と呼ばれた。


 私たちは影のように文明の端へ溶け込み、

 時に知識を伝え、

 時に戦争を止め、

 時に人を癒しながら――


 誰にも正体を知られることなく、ただ“見守る者”として地球に根付いていった。


 ◆


 星はまた生まれ、文明はまた育ち、人類はまた混迷する。


 だが今回は違う。


 私たちは、最初からそばにいる。


 ファルナとローザと三人で歩む永遠は、もう孤独ではない。


 そして私は確信した。


 地球は、彼らが選び、

 彼らが育て、

 彼らが救うべき――


 第三のガイアそのものなのだ、と。


 ◆


 地球に降りて五千年ほど経った頃だった。


 第四のガイアモンドが、ついに“生まれた”。


 それは隕石でも鉱脈でもなく――

 ひとりの少女として生まれた。


 夜空が裂け、雷が地平を走った日。

 人類の歴史は静かに転換した。


 少女は額に、かすかな光の粒を宿していた。

 まだ完全な宝石ではない。

 だが、レオとファルナとローザが持つガイアモンドと、同じ輝きの核がそこにあった。


 ファルナは震える声で言った。


「……やっと、来た」


 ローザは目を閉じ、息を整えた。


「四つそろって初めて、“全体”が目覚める。レオ、あなたは気づいていたでしょう?」


 私はゆっくり頷いた。


「ガイアモンドは、星の意志そのものだ。ひとつは“創造”。ひとつは“維持”。三つ目は“終焉”」


 四つ目は空


 四劫

 成住壊空


 少女の眼がゆっくりと開く。

 その瞳は、宇宙の最初の光と同じ色をしていた。


 ◆三位一体


 ガイアモンドが四つ揃うとき――

 宇宙は初めて「自分を理解する」。


 創造(レオ)

 維持(ファルナ)

 終焉(ローザ)


 これが、宇宙全体を貫く三位一体だった。


 そこに空を漏らすのが新たな四つ目のガイアモンド所持者。


 少女はレオの手を握り、静かに告げる。


「あなたたちは、“外側”へ来た。私は、“内側”から来た。これで揃いました。宇宙はもう、一度きちんと終われます」

「終わる……のか?」

「はい。でも、消えるのではありません。“やり直す”だけです」


 ビッグバンの反対――

 ビッグクランチ。


 それが、彼女の役割だった。


 ◆宇宙の終焉


 彼女が地球に生まれた理由はひとつ。


 この宇宙で最も長く続いた“知性”が、地球だったから。


 地球は“最後の記録媒体”。

 ここで四つのガイアモンドが揃えば、宇宙は全記憶を保存し、静かに畳まれる。


 レオは問う。


「終わった後、どうなる?」


 少女は微笑む。


「次が始まります。そして……あなたたちはまた生きます。永遠の者は、“向こう側”へ行けますから」


 ローザが苦く笑う。


「永遠ってのは……覚悟がいるものね」


 ファルナがレオの腕に寄り添う。


「でも、また一緒ね。たとえ宇宙が壊れても」


 レオは二人の手を握った。


「なら、構わない。最後まで見届けよう」


 ◆終焉の日


 少女が光に包まれる。

 三つのガイアモンドが音もなく共鳴し、宇宙のすべてで同じ震えが起こる。


 銀河が逆回転し、恒星が光を閉じ、黒洞と白洞が融合し、物理法則がゆっくりと畳まれていく。


 レオは最後の瞬間まで目を開けていた。


 それは恐怖ではなく――

 穏やかな“帰還”だった。


 少女の声が、無の中で響く。


「さあ、また始めましょう。あなたたちは、今回も“最初の光”」


 ◆


 そして――


 宇宙は再び生まれた。





 ◆あとがき◆


 真理から来た者を如来と言う。

 宇宙を超越してそれでも戻ってきた存在を。


 唯一神

 如来

 仏

 菩薩

 縁覚=上級天津神、熾天使、智天使、座天使

 声聞=中級天津神、主天使、力天使、能天使

 天界=下級天津神、権天使、大天使、天使

 六道輪廻


 ◆如来

 阿弥陀如来

 薬師如来

 大日如来

 阿閦如来

 宝生如来

 不空成就如来

 釈迦如来


 ◆過去七仏

 毘婆尸仏(びばしぶつ)

 尸棄仏(しきぶつ)

 毘舎浮仏(びしゃふぶつ)

 拘留孫仏(くるそんぶつ)

 拘那含牟尼仏(くなごんむにぶつ)

 迦葉仏(かしょうぶつ)

 釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ) 


 7+7=14(ぼくらの、FF零式)

 14-1=13(13信仰、7th信仰)


 神々=ヒンドゥー、神道、ギリシャ、エジプト

 上級天津神=天照大神、素戔嗚、建御雷

 など


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138億年の旅--オリジナル 空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~ @Arkasha

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