アフターパンデミック:神に見捨てられた世界で

リカルド

第1話 アフターパンデミック

1347〜1350年 ペスト 

1520年 天然痘 

1918年 スペインかぜ 

1981年 エイズ 

2009年 新型インフルエンザ

2019年 コロナウイルス


人類の歴史を語る上で、疫病やウイルスの存在はは外すことができないだろう。

それらの「見えない敵」は、数千万、時には数億人規模の感染を引き起こしてきた。


そしてその恐ろしさは人体への影響に留まらない。

魔女狩りに近い迫害、歴史を遡れば生け贄とされた人間もいるだろう。

他にもワクチンによる二次被害の疑惑、SNSの発達した現代ではデマの拡散など。

直接的なウイルスの被害だけではなく、人々の行為でさらに被害が拡大する。


しかし、最終的には人間と人間が手を取り合い解決策を見つけてきた。

そして、科学と医療の発達も、迅速な対応を可能にできるようになった大きな要因だ。




しかし、20XX年。

変異型ウイルスREAPERが出現。


死神の名を持つこのウイルスは、人類の歴史的な経験や、現代の技術を持ってしても対応不可能。

世界各地で広がったこのウイルスにより、感染者は世界人口の99パーセント以上に及ぶと推定される。


ワクチン?そんなもんねえよ夢見てんじゃねえ。俺らは神に見捨てられたんだよ。

・・・って俺が前にあった奴が言ってたよ。


神に見捨てられた・・・か。

まあ、人間はこの地球に対して取り返しのつかない事を沢山してきたからな。

そういえばSNSで、「ウイルスは人間を粛清するために作られたもの」なんて文を見たことがあった。

確かにそうかもな。自業自得の可能性もあり得るかもしれない。


なんにせよ。こうなったら俺ら人間はおしまいだ。

解決策もきっとないだろう。

だけど生き抜くしかない。地獄の方がマシだと感じてしまう世界を。




「ドオンッ!」


「ん?」


爆発音で眼を覚ます。

きっとアイツらがトラップに引っかかった音だろう。

後で処理しよう。俺は再び眼を瞑る。


「あー!クッソ!」


眠れない。現在の時刻は8時半。

いつも9時に起きているルーティーンを崩されて俺は不機嫌になってしまった。


「はあ・・・しゃあない」


トラップを修復するとしよう。たまには早起きもいいしな。

俺は重たい体を起こしてベッドから降り、準備をしてから外へ向かった。


トラップが仕掛けられているのは、俺の住む家から数百メートルほど離れたところにある。

ほぼ直線にしか歩いてこない奴らの特性から、必ずトラップには引っ掛かるようには配置してある。




「・・・は?」


トラップを避けつつ、音が聞こえた方向へと歩を進めた。

しかし俺が見たのは奴らではなく、2人の人間だった。


「っ・・・」


年は10代前半ぐらいに見える子供がお腹を抑えて蹲っている。

そしてもう片方の女は心配そうに子供に声をかけていた。

まさかこんなところで人間に会うとはな。


「助けてください!」


女が俺に気づくと助けを求めてくる。髪はボサボサで服はドロドロ。

頬もこけて顔色が悪い。栄養失調だろう。

この世界でメシにありつくのは楽ではないからな。


「お腹から血が出ていて・・・死んじゃいます・・・」


トラップは地雷のようになっており、爆発したことによってお腹に破片の一部が刺さってしまっている。

にしてもなんで生きてるんだコイツらは?人体がバラバラになるように作ってあったのに。

まあ、運が良かったな。




「助ける?俺にそんな義理ねえよ」


昔の俺だったら助けていただろう。

しかし俺の脳裏に浮かぶのは、俺を裏切り笑顔を浮かべていた奴らの顔。

きっとコイツらも自分の命のためなら、俺の事を平気で裏切るゴミだろうな。


「どうしてそんなこと・・・え?」


涙を拭って俺の顔を見た途端に、驚いた表情を見せる。

どうしたんだ?俺の顔に何かついているのか?


「ライトさん・・・ですか?」


震えた声で俺にそう問いかける。

そうだ。俺の名前はライト。しかしなぜ俺の名前を知っているんだ?


「俺を知ってるのか?」


「私はサラですよ!」


・・・ああ、いたなそんな子。

確か幼馴染で高校までずっと一緒だった奴。

懐かしい。確かによく見れば彼女だ。




「うぅ・・・」


子供が苦しそうな声を出す。このままじゃ死ぬかもな。


「お願いします・・・」


うぜえな。昔からウルウルした目で俺を見ていたのを覚えている。

彼女のことは何度か助けた経験もあった気がする。


「・・・そのガキを置いて着いてこい」


俺はそう言って家へと向かった。

あの顔を見ると、いつも俺は彼女に手を差し伸べてしまう。

他人は信じないって決めていたのに。


「ありがとうございます・・・」


言われ飽きたよ。声もあの頃と何も変わってない。

本当は説教してしまいたいぐらいだよ。人に頼りすぎだって。

しかし俺はもう呆れてしまってるぐらいだよ。




家に着き、彼女を中に入れると結局は子供を背負っていた。


「ガキは置いてこいって言っただろ」


「・・・」


彼女は黙りこくったまま、子供をソファに寝かせる。

ソファが汚れちまうだろ?正常な判断ができねえのか?


そして彼女は俺の方に振り返り、再びウルウルしながら俺を見つめる。

なんとか言ったらどうなんだよコイツは・・・


「はあ・・・服を脱げ」


「え?」


変な意味はない。しかし例のウイルスに感染してないかは体を見れば分かる。

あと服は臭えから脱いで欲しい。


「噛まれてねえか見るから脱げって言ってんだよ」


俺が怒鳴ると彼女は顔を赤らめながら服を脱ぐ。

ガリガリだな。しかし色気は思ったよりある。




「この子も噛まれてないです」


「嘘だったら殺すからな」


そして俺は子供の治療に入る。

傷口を縫ってから包帯を巻く。応急処置かもしれないが、こんなガキに貴重な薬などを使いたくはない。


「ありがとうございます・・・」


「夜には出てけよ」


俺はそう言い残してトラップの修復へと向かった。

それにしても面倒くせえ客人を向かい入れちまったよ。


女ってのは色々大変だし、なんの力にもならない。

知り合いだからって家に置いていても余計に生活が苦しくなるだけだ。


絶対に今日中には出て行かせる。

・・・そう思ってんのに、アイツとの思い出が頭を巡っちまう。

ウザい思い出ばかりなのに、なぜかまた助けたくなっちまう。

俺はバカだ。

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アフターパンデミック:神に見捨てられた世界で リカルド @Ricardo1234

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