彼とあいつの共通点
真花
彼とあいつの共通点
相談があると言うので昼休みにキャンパスのベンチでユミと待ち合わせた。銀杏の匂いがするけど寒くはなくて、よく晴れた空は遠くまで見通せそうだった。
「お待たせ」
ユミは風船を二つ浮かせて来て、一つを私に渡した。赤と黄色だった。
「で、どうしたの?」
「恋の話なんだけど。……私、エテ吉くんが好きなのに、モン太くんに告白されたの。どうすればいいんだろうって」
「二人とも猿感濃いけど、人間?」
「五分五分で人間。会ってるとダーウィンを感じるよ」
「進化の狭間!? いいの? 半分猿で」
「半分『も』人間だから、いい」
「そっか。それで、どっちを選べばいいかと。そんなの簡単だよ。自分が好きな方に行けばいい」
「でもエテ吉くんは私のことを好きじゃないことは分かってる」
「合理的になりたいんだね。じゃあさ、二人の共通点を探してみようよ。そしたら判断出来るかも知れない」
「二人とも地球の生物」
「いや、広いよ!? 対義語、地球外生命体だよ? キノコとだって恋出来ちゃう範囲だよ?」
「じゃあ、地球人」
「うん。キノコは除外されたけどまだ広い」
「半分猿」
「そうだけど。急に狭い。それがユミのストライクゾーンなの?」
「違う。猿だから好きなんじゃなくて好きになったら猿だったの」
「全部猿になっちゃったよ!? でも共通点ではあるか。……いや、もっとこう、行動面で何かないの?」
「バラの花をいつも胸に挿してる」
「どっちが?」
「どっちも」
「おしゃれだけれども! 日常に対して過剰でしょ!?」
「あと、靴が厚底。十センチくらいの。で、よく転ぶから生傷が絶えない」
「おしゃれなのか? 目的が知りたい」
「本人達は『個性とは生き様』と言ってるよ」
「ちょっとカッコいいのが腹立つわ。て言うか個性がまる被りしてますけど!?」
「白いスーツで、ブーツカット。一張羅だから毎日その格好してる」
「70年代の土曜日の夜か!? 踊るんだろ? ねえ?」
「踊らないよ。アフロでもないし」
「サングラスは?」
「カッコつけたときだけするから、たいがいいつも二人ともしてるよ。ティアドロップ型の奴。それで、極めるときにサングラスをパッと外すの。そしたらお顔がお猿なの」
ユミはにっこりと笑う。
「それは、極まってるの?」
「笑うの堪えるが大変」
「ユミがそうなら全然極まってないじゃない!」
「その極め顔、エテ吉くんは『モンパルナスの夕陽』って呼んでいて、モン太くんは『モンマルトルの朝陽』って呼ぶよ」
「二人は親友なんじゃないの? 被り過ぎでしょ!?」
「他人です。他人、いや、他猿の空似です」
「そこは人でいいでしょう? 他猿の空似って、何かの郷土料理みたいだし」
「ちょっとグロいね」
「想像しちゃったわ! 地獄の釜みたいになっちゃったじゃない!」
「同じのが浮かんでた。それで、口癖が『てやんでい』」
「急に江戸?」
「すぐに言うの。『おはよう、てやんでい』みたいな感じで」
「もう『てやんでい一号』と『てやんでい二号』でいいんじゃないの!?」
「二輪車に乗って通学してる」
「バイクかぁ」
「ううん。自転車。バイクは厚底では運転出来ない。自転車も危険だから乗るときは前のカゴに厚底入れて、裸足で漕ぐ」
「厚底やめろよ! そして、何で敢えて二輪車と言った!?」
「ちょっと気取った」
「等身大で行こう。ね」
「性格は豪放磊落」
「何て?」
「豪放磊落。ガッハッハって感じ」
「その格好でその性格だと、ハーレムがありそう、猿だけに」
「ないよ、そんなの。二人とも全然モテないよ」
「そうなんだ? いや、頭はいいの?」
「エテ吉くんは『スッポンを裸にするには、ポンと叩けばいい。ほら、スッポンポンだろ?』って言ってた。モン太くんは『物事をさっさとやりたいときは鯖を二匹用意すればいい。ほら、サバサバだろ?』って言ってた」
「着眼点! 同じ! 言い方も同じ! そしてユーモアが地味! 地を這ってる!」
「運動神経は、エテ吉くんもモン太くんも生涯帰宅部であることしか分からない」
「何で、今後の人生も全部帰宅部で確定させるんだよ! それに運動する機会は他にもあるでしょう?」
「二人に限ってはない。野山を駆けたりはしていない。そう言う夢はよく見るらしいけど」
「本能の疼き?」
ユミ、うん、と手を前に伸ばす。
「これくらいかな、二人の共通点は」
「ほぼ全部一緒じゃない? むしろ何が違うの?」
「名前、かな」
「そこ!? いや、そこだけど」
「ありがとう。決心がついたよ。私、二人ともやめるわ。やっぱり二人ともおかしいわ」
「だよね」
私達は手に持っていた紐を離した。二つの風船は空に舞い上がって行った。
(了)
彼とあいつの共通点 真花 @kawapsyc
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます