火種

@mia9503

火種

ミアは灰色の森の中で火種を見つけました。火種は小さい枝にしがみつき、風に揺らいでいました。すぐにでも消えそうに見えました。ミアは火種に近づき、枝を持ち上げました。


『何をする気?』


火種が力なく聞きました。ミアは答えず、持って来たランプに灯を移しました。


『やめて。もう死なせてくれ。』


火種は小さい灯になりました。


『ダメ。僕は罰を受けないと。周りを見て。森がどうなっているか。』


ミアは来た道を戻りました。歩きながら身を震わせたり、手を合わせ、手のひらに息を吹いたりしました。


『僕をどこに連れていく?何かさせるつもり?』


ミアはただ歩き続けました。


『小鳥たちは僕が吹いた煙に窒息して地に落ちたよ。シカは涙を零し、狐は悲鳴を上げたよ。なにもかも焼かれてしまったんだ。全部僕のせい…』


正面から強い風が吹き始めました。ランプの灯は消えそうに揺らぎました。


『吹け!もっと強く!』


ミアはランプを抱きしめて足を速めました。やがて向こうに松林の見える小川の前に着きました。ミアは凍った小川を渡りました。


『森だ。また森だ!』


灯は身を震わせました。


『僕は火事なんかにはなりたくなかった。もとは花火だったんだ。夏祭りを待っていた。なのにある子供が物置に忍び込んで僕を外に連れ出したんだ。』


ミアは松林の中に入りました。


『あの子は僕を森に向けて発射した。冬だから土も乾いていた。僕はあっという間に大きくなった。木々を飲み込みながら。自分を制御できなかった。』


ミアは松林の小屋に入りました。部屋の中は歯がガタガタするほど冷えていました。ミアは囲炉裏に近づきました。ランプの灯はもう死のうとするのは諦めたようでした。黙ってミアの次の行動を待つだけでした。


ミアは薪に灯を移しました。火は勢いよく燃えました。ミアは小さな声で呟きました。


『火種が見つからなかったら死ぬところだった。』


ミアは焚き火の方に手を当ててゆっくり休みました。

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