地雷
影森 蒼
地雷
私は地雷を踏んでしまった。
幸い、この場を離れなければ起爆はしない物のようだ。
しかし、仲間は側におらず、持ち物も小銃とペットボトルに入った飲み水、そしてサバイバルナイフだけ。
滴る冷や汗を照りつける炎が乾き飛ばす。
大声で助けを呼んでも人の気配を感じない。
まして、灼熱とも呼べる砂漠のような場所で生命の痕跡すら感じ取ることの出来ない場所だった。
射撃音で気づいてもらおうにも、銃の反動で足が離れてしまわないか不安で実行出来ない。
飲み水を地雷があるであろう場所に水をかけても起爆装置が故障して助かる保証など一切無いのだ。
掘り起こそうにも、正確な位置が分からないため、起爆してしまうかもしれない。
あまりに絶望した私は立ち尽くしてしまった。
飛び去っていく鳥が私を嘲笑っているように感じてしまうのは命が脅かされているからなのだろうか。
空はまだ生きていた。
それだけで嬉しく思えた。
鳥の声を掻き消すようにして、地雷からはまるで脈を打つ様な音が聞こえる。
地雷が私に動くなと語りかけてくるようなリズムを刻んでいた。
リズムを捉えたペットボトルの水が波紋を描いている。
私は唾を飲み、喉をごくりと鳴らしながら見つめる事しか出来なかった。
動けないのなら動かなければいい。
晴れの日も風の日も、銃弾が飛び交う日も。
いつか終わりを迎える日までこのままでいればいいのだ。
もしかしたら誰か、助けが来るかもしれない。
私の思考は一巡して他人の救済を期待するばかりになっていた。都合よく天から救いの糸が垂れる事などあるはずが無いと今までの人生が無情にも証明しているというのに。
私の胸は死の淵に立っている今もなお、地雷と共鳴するように全身へと血を送り届けていた。
離れないように筋肉を強張らせ、力を加えすぎないように神経を注いだ右足は痺れて感覚が無くなってきている。
ヘルメットの下にだけ降る小雨が地雷を刺激しないように手を桶にするようにして受けた。
本能は生に向かうのに理性は死を甘受している。
私は生きているというより生かされているという方が正しいかもしれない。
生かされているだけの状態は死んでいることとどう違うのだろうか。
今この瞬間、私という存在全てを用いて生を感じていたかった。
思い立った私は、地雷を踏んだ右足だけをそこに置いてやる。
千切れた戦闘服と赤黒い斑点は彩りに欠けた砂漠に色をもたらした。
その場を後にしても地雷は何も語らなかった。
私の心臓は今だに地雷が刻んだリズムを打ち続けていた。
地雷があったのは、心の方だったのかもしれない。
地雷 影森 蒼 @Ao_kagemori
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