3000円クレーンゲームに溶かした高校生ズ
蕪株歌舞
3000円溶かした男の結末
「—————お?クレーンゲームか?」
夕暮れ時の帰り道。
先ほどから反応の薄いことを不服に思っていた高3の遠野奏太は、隣を歩く同じく高3である近藤奏江の目線の先にある道路を挟んだ向かい側のゲームセンターに目を向けた。
「あー、まぁ・・・ちょっと気になって」
「・・・たまには寄り道するか」
「いいのー?確かこの後勉強するんじゃ・・・」
「少しは休みたいんだよ」
だらだらと信号を渡りながら、奏太は財布の中身を確認した。中には1000円札が三枚ある。今日だけで2000円くらい使ってしまっても来月まで持つだろう。
「————というか、奏太ってクレーンゲームやるんだ。あんまりイメージなかったなー」
「・・・おまえは俺のことなんだと思ってるんだ?」
「生真面目なガリ勉」
「否定はしないが、俺は勉強嫌いだよ・・・・・・まぁ、クレーンゲームほぼやったことないが」
「なんと」
そうこう話しているうちに向かい側のゲームセンターに二人は到着した。
遠くから見ていたからわからなかったが、クレーンゲームの中身はとある少女をデフォルメ化したぬいぐるみだった。
「・・・『R&R』の夕霧か!」
「そう!さっき目に入っちゃってさ~。もう欲しくてたまらなくて!」
奏江にとって、夕霧は推しキャラだ。『R&R』とはRPGゲームの一種で正式名称は“ロケット&ロール”。一般的なメジャーゲームとまではいかないが、マニアックオタクが多いことで有名だ。ちなみに“夕霧”は優しそうな見た目の裏腹に毒舌で愛が重いキャラとして人気を集めている。後このゲームでは唯一の糸目キャラだ。隣には、青髪長髪の“ソルト”がいる。
「————ねぇ、ちょっと勝負しない?」
「———ん?」
何を思いついたのか、彼女は200円クレーンゲームにいれながら、悪い顔を浮かべながら奏太に提案してきた。
「先に人形取れなかったほうが、この後コンビニで何か奢る」
「それ負けた人の出費えぐくないか?」
「それが勝負というものだよ・・・」
「いやな賭けだな。敗者に利益がなさすぎる」
「もともと敗者に利益なんてないでしょうが。それとも嫌?負けるのが怖いー?」
「上等だ。その面、泣かしてやる」
「ただのクレーンゲームだよね?」
奏江がさっそくアームを動かし始め、奏太は両替機に向かった。奏太は久しぶりに奏江と遊んでいる実感を持て、心から楽しんでいた。ここ最近は受験勉強やら進路やらでお互いに忙しかったこともあり、ゆっくりできる暇がなかった。
かくして、意地もプライドもないクレーンゲーム対決が行われた。
***
「—————あー?!ちょっと!なんでそこでアーム放しちゃうの?!弱すぎるんだけど?!」
「・・・・・・これでお互いに手持ちはゼロ、か・・・ま、初心者がやるとこんなもんか・・・・・・?」
「私が前やったときはやつは600円で取れたよ?」
「まじか。・・・じゃ、あれだ。この機種が取らせる気がない」
「ありえる。どっかで聞いた話によれば、アームによって取れるものと取れないものがあるらしい」
あれから30分ほど経過し、奏太たちの懐は空と化していた。
奏太にいたっては使わない予定だった1000円にまで手を出してしまっている。もう彼は今月厳しいだろう。
「————まぁ、こんなことやっていられるのもあとちょっとか・・・」
奏江がしんみりした口調で語り始めた。
「————初めて遊んだのもさ、このゲーセンだったよね?」
「懐かしいな。確かそん時おまえこの辺にあったクレーンゲームのぬいぐるみ取れって無茶振りしてきたよな?」
「・・・そんなこともあったっけ?」
「そうだよ!今思い出したが、あんとき散々金使った上に取れなかったせいで『もう二度とクレーンゲームなんてやるもんか』って思ったんだよ!」
「・・・忘れちった☆」
「殴りたいてぇなの笑顔」
「ごめんごめん。ちゃんと思い出したから!・・・そう思うと懐かしいね。中一だっけ?初めて
「あぁ。あんときは楽しかったなー。今よりもお前は生意気だったが」
「私もあんときのほうが楽しかったよー。ツッコミがキレッキレでいじり甲斐があったから」
『・・・・・・』
お互いに嫌味を言っているようにしか見えないが、これでも彼らにとっては“良い”思い出なのだ。
ついに夕日の明るさも終わり始め、夜に向かおうとしていた。
「————奏太はさ、やっぱ一般でK大学行くの?」
しばらく沈黙が続いていたが、ポツリと奏江がつぶやいた。
「———あぁ。というかもう一般で行く以外選択肢ねーだろ」
「なーんで一般っていう一番時間かかるやつ選んじゃったかなー。卒業まで遊ぶの待たないとじゃん」
「悪かったなー。俺もやりたくて一般やってるわけじゃねーよ」
「じゃ、なんで?」
「それしかK大行く方法がなかったんだよ。どうせ俺頭悪いし」
「ついでにすぐ遊んじゃうし?」
「追い打ちやめてもらえない?!事実だけど!」
「ごめん。今のはさすがに私が悪かった」
少し拗ねてしまった奏太に謝る奏江だったが、ふと気が付いてしまった。
「ねぇ、なんで“ソルト”のほう取らなかったの?奏太こっちのほうが好きじゃん」
それを言われ、奏太はあからさまに目線をそらした。
「いや、そのなんというか・・・おまえ、欲しかっただろ。取れたらやろうかなって思って・・・ただそれだけ。深い意味は何もねーよ///」
「・・・・・・そ、そう///ってなんで私まで照れなきゃならないの?!雰囲気に流されちゃったじゃん//!」
このヘタレが。
奏江は内心毒づきながら自分も人のこと言えないくせにと思い直した。
結局のところ、奏江もこの高校3年間想いを伝えられずにいる。周囲から見ればもうとっくに付き合っているように見えると言われていたが、そんなのはヘタレの
奏太も奏太で、ちゃんと言おう言おうと思ってはいるが毎度何かしらかの理由を付けたり、間が悪いせいで言えずじまいだった。受験が終わったら言おうと思ってはいるが、果たしてその受験が無事終わるのかが不安になってしまい『次会った時に言おう』と思って今日この後いうつもりでいたりする。
「————かなe———」
「おーっす!奏太に奏江じゃーん!お前らも帰りかー?いっしょにファミレス行かね?今から昨日黒八木が白谷木の高級プリン間違えて持ち替えちゃった上に食べたのがのバレて、それを必死でごまかすのに黒八木が教室で最近覚えたての手品でスーパーで売ってるプリンをプレゼントしたら4回転しながら白谷木にぶん殴られる様子を見ていた鬼塚にブチ切れられて教室掃除をさせられた二人を慰める会をやるんだけどお前らも来るか?」
とんでもない情報量を言い放ちながら奏太の邪魔をしてきたのは同じクラスの松尾だった。おそらく悪意はない。多分。
『・・・・・・ごめん。金がない』
「そかー。じゃーしゃーね。明日詳しく教えてやるよ。二人も気を付けて帰れよー」
そうして嵐のように去っていった松尾だったが、すっかりもうタイミングを流してしまった二人は互いに顔を見合わせて苦笑いした。
「帰るか」
「そだね」
「送ってこうか?もう遅いし」
「んー・・・ねぇ奏太」
「ん?」
「今度私に“夕霧”くれたら、いいことあるかもよ?・・・じゃ、じゃあ!また明日//!」
「あ!ちょ!」
そういうと奏江は走っていってしまった。一人取り残された奏太は、しばらく茫然と突っ立っていたがやがて彼も歩き出した。
「今俺の貯金、いくらあったっけ・・・?」
もうすっかり夜の風で寒かったが、なぜか体は熱を帯びているような気がした。
***
後日、奏太は10000円使ってぬいぐるみを取るのであった。
ちなみに奏江はまず呆れた。
3000円クレーンゲームに溶かした高校生ズ 蕪株歌舞 @kabuno3sosiru5matu7tuki
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