第6話-旧日の幻影 - 陰初
批注:私が去った後……
文芸部のドアが背後で静かに閉じ、室内の最後の光を遮断した。私の足音は旧館の空虚な廊下に反響し、次第に遠ざかり、最終的には古い建物自体の沈黙に飲み込まれた。
部室の中で、三月の空気はまだ名残の涼しさを帯びている。淡い緑色のショートヘアの雯(ウェン)はその場に立ち尽くし、その視線は濃い色の木製のドアを透し見ているようだった。彼女の細い指は落ち着きなく絡み合い、指の関節がわずかに白くなっている。
「こんなふうに……バンド結成のことを、完全に彼女に任せてしまって……」彼女は呟くように言い、その声には明らかな不安が滲んでいた。窓辺に立つ影に向き直って、「奈葉(ナヨ)ちゃん、私たち……あまりにも放任しすぎじゃない?雨部長は確かに私たちにこの仕事を任せてくれたのに、私たちはそれを入部したばかりの晴(シン)さんに押し付けてしまった……」
奈葉は振り返らない。背中まで届く長い紫の髪は、窓から差し込む温かみに欠けた光の中、柔らかな輝きを放っている。彼女の視線は、中庭に立つ、まだ目覚めていない木々の枝に留まったまま。その声は、自分とは無関係な事実を述べているかのように平静だった。
「彼女自身の意志で歩み、彼女が辿り着くべき結末へと向かわせなさい。」
雯は困惑して瞬きした。淡い緑色の瞳には窓外の微光が映っている。「奈葉ちゃんはまた私が理解できないようなことを言ってる……」彼女はため息をつき、少し依存めいた不満を込めた口調で、無意識のうちにそっと奈葉の腕に肩を寄せた。それは、彼女にとって安心の支点であるかのように。
奈葉はその微かな寄り掛かりを感じ取り、体を動かさず、ただわずかに首を傾け、伏せたまつ毛が瞳に一瞬でも浮かんだかもしれない感情を覆い隠した。口元に、ごく淡く、ほとんど捉えどころのない弧を描いて、それ以上の説明はしなかった。
「でも……」雯の声は低くなり、本物の憂慮を帯びていた。「雪(シエ)ちゃんの方は多分大丈夫だとして……彼女は元々賑やかなのが好きだし……でも、他の適任者をどこで見つけられるの?晴さんは、本当にうまく対応できるのかしら?私が雨さんにここに引き込まれた時は、随分と慌てふためいたものよ……」
奈葉の視線は相変わらず窓の外に向いたまま。あの裸の枝の間に無限の秘密が隠されているかのように。「過程そのものが、意味なのです。」彼女の言葉は相変わらず簡潔で、彼女に特有の、理解しがたい確信に満ちていた。
雯はもう何も言わず、ただ黙ってほんの少しだけ近づいた。二人は並んで窓辺に立ち、誰もいない廊下を見つめ、それぞれの思いを胸に、未知なる結果を待ち続けた。部室には古びた掛け時計の規則的な滴答音と、どこからともなく聞こえる、かすかなため息だけが残された。三月の風は、乾いた土の気配を乗せて、窓の隙間からこっそりと潜入してきた。
正文:
昼休みの廊下は、喧騒の早回しがかかったようだった。人の流れが湧き立ち、笑い声、談笑声、慌ただしい足音が入り混じる。私、晴(シン)は、深く息を吸い、人混みの隙間を通して、窓辺に一人で寄りかかっているあの姿――陰(イン)を捉えた。
彼女はそこに立ち、まるで周囲に防音バリアを張り巡らせているかのように、周りの活気とは相容れない雰囲気を漂わせていた。浅灰色のショートヘアは、窓から差し込むやや青白い光の下で、金属のように冷たい光沢をほのかに放っている。
今だ。雪の助言を思い出し、勇気を振り絞って近づいた。
「あの……陰さん?」
彼女はその声を聞き、ゆっくりと振り返った。浅灰色の瞳には何の感情もなく、ただ静かに私を見つめる。それはまるで、取るに足らない置物を見ているかのようだった。
「二年の晴です、文芸部の部員です。」私はできるだけ自分の声を明確で落ち着いたものにしようとした。「私たち、学園祭のためにバンドを結成していて、楽器担当が必要で…陰さんがピアノを弾けると聞いたのですが……興味はありますか……?」
「興味ない。」
冷たい言葉は、何の前触れもなく、鈍い刃物のように私の誘いを切り捨てた。彼女は私の話を最後まで聞きすらしなかった。
その直後、私がまだ何の反応も示せていないうちに、彼女はすでに再び窓の方に向き直り、冷たい背中と、より簡潔な追い払いの言葉だけを残した。
「邪魔しないで。」
私はその場に凍りついた。当惑と茫然が入り混じった熱気が一瞬で頬に昇ってきた。周囲からいくつかの視線が注がれ、意識的に抑えた噂話が付随しているように感じた。それらのかすかな声は針のように、今の私の敏感な神経を刺す。
私……もしかして、あまりに軽率だったのか?
遅れて訪れた後悔が込み上げてきた。彼女と私は全然親しくない、話したことすらない。そんな私が突然近づき、密接な協力を必要とする「バンド結成」のような依頼を……彼女の目には、空気も読めず、自分勝手に熱心なバカに映っているに違いない。
彼女の「邪魔しないで」という言葉は、多分完全に悪意からというよりは、むしろ招かれざる客に対する本能的な拒絶なのだろう。私は事前に雪を通じて彼女の意向を探りすらせず、ただ直情的に飛び出してきた……
敗北感が潮のように押し寄せてきたが、それ以上に自分自身への無力感を感じた。私は唇を強く結び、いくつかの漠然とした視線を感じながら、ほとんど聞こえないような声で「ごめんなさい、お邪魔しました」と呟き、すぐに背を向け、ほとんど逃げるように流動する人混みに紛れ込み、できるだけ早く皆の視界から消え去りたいと願った。
放課のチャイムは、目に見えない束縛を解き放ったかのようだった。校舎は一瞬で沸き立った。私は鞄をしまう動作を少し遅らせ、頭の中にはまだ昼休みのあの払拭できない気まずさがまとわりついていた。教室を出ると、夕日が丁度良く、廊下を暖かな金色とオレンジ色に染めていたが、この温かさは私の心の寒さを追い払うことはできなかった。
靴箱に向かおうとした時、視界の端に前方のあの馴染みのあるようで陌生い姿が映った。陰は一人で人混みの端を歩いていた。夕日が彼女の影を長く引き延ばし、その姿は喧騒の放課後の人混みの中で特に孤独に見えた。彼女の歩みは速くはなかったが、一歩一歩には明確な距離感が伴い、まるで自身の周りに見えない境界線を引いているかのようだった。
私は躊躇った。理性はここで諦めるべきだ、これ以上自ら進んで面倒を引き起こすなと言っていた。しかし、もう一つの感情――多分罪悪感か、あるいは諦めきれない気持ちか――が私に歩みを進めるように促した。私は三々五々たむろする人々の間を小走りに抜け、校門のそばの大きな銀杏の木の下で彼女に追いついた。
「陰さん!ちょっと待ってください!」
私の声は小走りしたため、少し息切れがしていた。彼女は足を止め、ゆっくりと振り返った。浅灰色の瞳は夕日の残照の中でいくぶん和らいでいるように見えたが、その距離感は依然として存在していた。彼女は静かに私を見つめ、口を開かず、私の説明を待っているようだった。
私は彼女の前に立ち、真剣に、深々とお辞儀をした。
「ごめんなさい!」私の声は想像以上に大きく響いた。「昼休みに突然あんなこと言って、きっと迷惑をかけてしまいましたね、本当にすみません!」
私はお辞儀の姿勢を保ったまま、心臓が胸の中でドキドキと激しく鼓動していた。周囲を通り過ぎる生徒たちが好奇の視線を投げかけ、それらの視線が細い針のように背中に刺さるのを感じた。数人の女子生徒が私語をしながら私たちの横を通り過ぎ、「また彼女か」「陰が居然止まったんだ」といった断片的な議論を捉えることさえできた。
しばしの沈黙の後、彼女がそっと息を吐くのを聞いた。
「……別に。」
私は体を起こし、彼女の平静な視線と向き合った。彼女は不耐の表情を見せず、ただ静かに私を見つめていた。これで私は勇気を出して話し続けることができた。
「後で考えたんですけど」と、私は言葉を選びながら、指が無意識に鞄の紐をもじもじといじっていた。「あんな風に突然誘うのは、確かに軽率でした。ちゃんと自己紹介もせず、バンドの計画も明確に説明しないで、いきなり入ってくれないかって聞くなんて……私が考え不足でした。」
私たちはあの銀杏の木の下に立っていた。初春の枝には既にいくつか若芽が顔を出し、夕日の中では微かに光っていた。一陣の微風が吹き抜け、夕暮れの涼しさを運んできた。
陰の視線はわずかに垂れ、足元の砂利が敷き詰められた地面に落ちた。
「あなた、転校生?」彼女が突然口を開いた。声はとても小さく、ほとんど風に消えそうだった。
「え?はい。」私は意外そうに答えた。「今学期に転入してきました。」
「道理で……」彼女の声は相変わらずか細く、一種の納得したような口調だった。「転校生だから、何も知らずに近づいてくるんだ。」
この言葉は細い棘のように、そっと私の心を刺した。しかし、彼女の言うことが事実だと分かっていた。この学校では、彼女に関する噂がきっと少なくないだろう。そして、私という転校生はそれについて何も知らず、無神経な侵入者のようだった。
私は勇気を振り絞って、午後中頭を離れなかったあの質問をした。「陰さんは……バンドとか、そういう団体活動があまり好きじゃないんですか?」
彼女の肩がほとんど感知できないほど一瞬硬直し、視線は依然として下を向いたまま、私を見ようとしなかった。
「以前、アイドルグループのメンバーだったの。」彼女の声は平らで、何の起伏もなく、自分とは無関係な事実を述べているようだった。「あることのせいで。もうこういうのには関わりたくない。」
この言葉は多くのことを説明していたが、何も説明していないようでもあった。アイドルグループ――この肩書きは、私の目の前にいるこの陰鬱で距離を置く少女と強い対照を成していた。それがどんな経験だったのかは知らなかったが、彼女の現在の表情と態度から、それが決して楽しい思い出ではなかったことを感じ取れた。
私は静かに聞き、詳細を追及しなかった。夕日が私たちの影をさらに長く引き延ばし、砂利の地面で絡み合っていた。
「分かりました。」私は声を潜めて言い、慎重に言葉を選んだ。「でも……もし、ゆっくり進めてみるだけなら?あなたを苦しめるようなことはしません。すぐにステージに立つことも要求しないし、あなたがやりたくないことは何も強制しません。ただ……みんなで一緒に音楽を楽しむ感じを試してみませんか?」
私は少し間を置き、付け加えた。「雪さんももう参加を承諾してくれました。彼女によると、あなたがピアノを弾けるかもしれないって……」
「音楽は、苦い思い出であるべきじゃないですよね?」私は優しく言った。「もしかしたら、最初に音楽を好きになったあの気持ちを取り戻せるかもしれません。」
雪の名前を聞いて、陰のまつ毛がかすかに震えたが、すぐにまた平静を取り戻した。
私たちの間の沈黙は長く続き、彼女がもう返事をしないと思い、もう一度別れを告げて去ろうとし始めた頃だった。私がほとんど諦めかけたその時、彼女がほとんど聞こえないため息をついた。そのため息は羽毛が落ちるかのように軽かったが、この黄昏の空気の中で特に鮮明に響いた。
「……わかった。あなたも雪も、私の知ってる人に似てるから…」彼女はようやく頭を持ち上げ、浅灰色の瞳には夕日の最後の光が映り、その光によって彼女の瞳の霧がいくぶん晴れたように見えた。「試してみる。」
この二語は風に散りそうなほど軽かったが、私ははっきりと聞き取った。一股の暖かい流れが瞬間的に心に湧き上がり、昼休みからずっと居座っていた敗北感と寒さを追い払った。
「本当ですか?よかった!」私は思わず笑顔を見せたが、すぐにまた抑え、あまり興奮して彼女を驚かせてはいけないと恐れた。「それじゃあ……明日また詳しく話します?それとも、まず雪さんと話してみますか?」
「うん。」彼女は軽く頷き、それから背を向けた。「先に失礼します。」
私はその場に立ち、彼女が遠ざかり、校門の外の人混みに溶け込んでいく背中を見つめた。夕日は完全に地平線に沈み、空にはまだ淡いオレンジ色の名残がかすかに残っていた。私は夕暮れの涼しい空気を深く吸い込み、一日中胸の重荷としてのしかかっていた重みがようやくいくらか軽くなったのを感じた。
前途が依然として未知であるとはいえ、陰の承諾にも明らかな不確かさと保留が伴っていたが、少なくとも、これは始まりだった。私は星が幾つか現れ始めた空を見上げ、バンド結成というこの一見不可能な任務が、もしかしたら本当に実現するかもしれないと初めて感じた。
窓外の夜は完全に深まり、遠くの街灯がカーテンの隙間に細長い光の帯を投げかけていた。私はベッドの頭板にもたれ、指先で無意識にスマートフォンの画面を撫でながら、昼間に起きた一幕一幕が脳裏に去来した。陰のあの浅灰色の瞳が、夕日の下で微かに揺らめいていた様子が、特に鮮明だった。
ちょうどその時、スマートフォンの画面が突然明るくなり、雪からのメッセージが表示された。
雪: どうだったどうだった!陰に会えた?彼女、なんか言ってた?「私と一生バンドを組んでくれますか?」みたいな超——重たい台詞とか~ (≧∇≦)ノ
画面に躍る絵文字を見ながら、私は雪が今、ソファに埋もれて目を輝かせ、ゴシップを聞くのを待っている姿をほとんど想像できた。思わずくすりと笑い、指をキーボードの上で少し止めた。
晴: 小雪はまた私が理解できないネタを…どこのアニメの台詞?
雪: え——シンつまんない!こんな古典的なネタも知らないの!(*  ̄︿ ̄) 雪:でも重点はそこじゃないよ!彼女、結局なんて言ったの?承諾した?それともさっさと行っちゃった?
私は言葉を選び、事態が順調すぎると雪に思わせたくなかったし、心配もさせたくなかった。
晴: まあ……承諾したよ……。
雪: わっ!マジで!(⊙ˍ⊙) 雪:彼女、絶対即断ると思ってたのに!シン、なんて魔法使ったの?
晴: 別に魔法なんて……ただ、誠実に謝ったんだ。昼休みはあまりに軽率だったから、後で放課後にもう一度彼女を探して、きちんと状況を説明したの。
雪: え——待って!まさか私の名前出した?私のアイデアだとか言った?(;一_一)
雪が突然緊張して詰め寄ってくるのを見て、私は思わず笑ってしまった。
晴: ないよ。ただ、文芸部からの依頼で、キーボーディストが必要なんだって伝えただけ。
雪: ああよかったよかった~( ̄▽ ̄)~* 雪:でも……彼女、居然承諾したんだ……なんかめっちゃ陰キャな人だと思ってたのに… 雪:待って!彼女の傷跡に触れちゃったんじゃないよね?、アニメだとこういう人たちはみんな不幸な過去があるって言うし!やばいやばい、私と彼女親しくなってまだ二、三週間だし全然知らないよ
雪の鋭さに私は少し驚いた。彼女が「以前アイドルグループのメンバーだった」とあの平静すぎる口調で言ったのを思い出した。
晴: 彼女、確かに以前アイドルだったって話はしたよ…でも具体的なことは何も言わなかった。彼女が自分からこの話をしたこと自体、多分一歩前進なんじゃないかな?
雪: うーん…多分ね。でも彼女が承諾してくれて本当によかった!(^▽^) 晴:うん、私と陰、まずは会って話してみるだけって約束したんだ。それから、ついでに他のメンバーも何人か見てみたいな、今まだ1人足りないよね、部長を入れてなら
雪: 了解!任せて!絶対に彼女にバンドの面白さを感じさせてみせる!╰(°▽°)╯ 雪:でもそういえば……誰だって私が転校生だからね、多くのことに詳しくなくて。
このメッセージを見て、私は雪の口調が少し落ち込んでいることに気づいた。これは私が知っているあのいつも元気いっぱいの雪ではなかった。
晴: 小雪? 雪:あはは、別に!私の問題だよ!彼女があなたを責めなくてよかった!( ´・‿・`) 雪:じゃあまた明日!
会話はここでぱったり途切れた。私は画面を見つめ、雪の最後の言葉には何か言い残したことが隠されているような気がしてならなかった。窓の外からかすかな虫の音が聞こえてきた。私はスマートフォンを置き、ベッドに横になった。
バンドを組むというこの件は、私が想像していたよりも複雑なようだ。メンバーそれぞれが自分の過去と秘密を抱え、まだ開かれていない本のようだった。そして私という転校生は、そのページを一枚一枚めくっているところだった。
でも、少なくとも今のところ、私たちにはドラマーがいるし、可能性のあるキーボーディストもいる。私は天井に映るぼんやりとした光と影を見つめ、そっと息を吐いた。
明日は、また新しい一日になる。
晴、落ちて雨 @SaotomeNatsuki
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