てるてる坊主の証言
藤泉都理
てるてる坊主の証言
『いいかい。
漆黒のおかっぱ頭、包帯を巻いて目を隠している魔女であり劉梨の師匠でもある
「ええ。お師匠様。触れてはいませんよ。触れては」
「劉梨。座って話そうか」
「はい」
朝ご飯の食器を洗っていた劉梨は最後まで終えると、紅茶を淹れて、清世の前にティーカップを置き、食卓を挟んで清世の真向かいに座った。
「残念でしたね。お師匠様。お師匠様の魔力が注ぎ込まれても、てるてる坊主の力は発揮されず朝から土砂降り。でも。落胆しないでくださいね。お師匠様。お師匠様が史上最高の魔女である事には変わりませんから」
清世はティーカップを掴んで、口元に近づけ、慎ましやかな紅茶の香りを嗅いだのち、一口分飲んでは、美味しいと言って微笑んだ。
「そなたの淹れてくれる紅茶を飲むと、とても癒されるよ」
「えへへ」
「うん。美味しい」
「えへへへ」
「そなたの淹れた紅茶しかもう飲めないな」
「えへへへへ」
「私に何か言う事はないかな?」
「いえ。あ。どうしたんでしょう? 十体のてるてる坊主が来ました」
ふらふらふら。
浮きながら食卓の上に一列に並んだ十体のてるてる坊主を見た劉梨は、少しだけ動揺してしまったが、少しだけ。何にも心配する事はないと平常心になって清世を見た。
「おや。どうしたんだろう。晴れにできなかったから気に病んでいるのかな? 気にしなくていいんだよ。天気を変えるなんて、それはそれは大変な事なのだから、変えられない時もあるさ」
「そうだよ。てるてる坊主たち。お師匠様の顔に泥を塗った大変な事をしでかしたと気に病む事はないんだ」
ふらふらふらふら。
十体のてるてる坊主たちはお互いを見て、清世を見て、劉梨をじっと見た。
劉梨はにこやかな笑みを浮かべたまま、十体のてるてる坊主たちをじっと見た。
じぃ~~~っと。
劉梨と十体のてるてる坊主たちが無言で見つめ合う事、十五分間。
一体のてるてる坊主が清世の前へと浮かんだまま進んだのである。
劉梨はにこやかな表情を保ったまま、けれど心中では動揺しまくっていた。
(ッゲ。まさか裏切る気じゃ)
「おや。どうしたんだい。え? 実は証言したい事がある? ふむ。劉梨に買収されていた。大好物のシュークリームで。しかも期間限定の栗味。ほおう。いいね。私も食べたいな。今度買ってきておくれ。劉梨」
「今度と言わず今から買ってきます」
勢いよく椅子から立ち上がった劉梨であったが、清世から座るように優しく言われて、おとなしく椅子に座り直したのであった。
「劉梨から雨にするように頼まれた。ほう。『いけ好かないクソ王子のところにお師匠様を行かせたくなかった。クソ王子の髪の毛を艶やかにする薬草を届けたら、クソ王子はお師匠様に懲りずに求婚する。断っても諦めれないしつこいやつだ。お師匠様が受け入れるわけがない。でももしも。お師匠様は優しいから絆されるかもしれない。結婚して王族の一員になったら。ぼくはもうお師匠様と一緒に過ごせない。それは嫌だ。だから雨にして薬草を天日干しできないようにしてくれ。そうしたら、クソ王子が望む薬草は出来上がらない。お師匠様がクソ王子のところに行かなくてすむ』。そう言われて、同情したてるてる坊主たちは雨にした。と、言っているけれど。劉梨。本当かな?」
「………」
「劉梨」
「ぼくは破門、ですか?」
「てるてる坊主が言っている事が本当かどうか訊いているんだよ」
「………本当です」
「ふむ。そうか」
清世はほかの九体のてるてる坊主たちも包帯越しに見つめたのち、二度と買収されてはいけないよと言った。
十体のてるてる坊主たちは大きく頷いた。
清世は小さく頷いたのち、劉梨を包帯越しに見つめて、二度としてはいけないよと言った。
「ごめんなさい。お師匠様」
「うん。劉梨」
「はい」
「安心しなさい。もしもクソ王子の求婚を受けたとしても、そなたも一緒にお城に連れて行く」
「………え。え! えっ!?」
「ふふふ」
「お師匠様っ!? え。結婚しませんよねっ!? ねっ!?」
「ふふふ」
「お師匠様っ!! ぼく絶対に嫌ですからっ!!」
「安心しなさい。そなたが独り立ちするまでは結婚しない。そもそもする気がないけどね。心配なら約束しておこう」
「ほ。本当ですか?」
「ああ。約束だ」
「っ約束ですよ」
「ああ。十体のてるてる坊主たちが証人だ」
勢いよく劉梨に見つめられた十体のてるてる坊主たちは勢いよく頷いた。
劉梨は満面の笑みを浮かべて、約束ですよともう一度言ったのであった。
(よおしっ! 早く大きくなってお師匠様に求婚するんだっ!)
(2025.11.15)
てるてる坊主の証言 藤泉都理 @fujitori
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