第23話『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(コンピュータとネットワーク)

【著者】新井紀子

【タイトル】『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

【出版社】東洋経済新報社

【発売日】2018年2月2日

【ISBN-13】978-4492762394

【ASIN】B0791XCYQG

【評価】☆☆☆☆☆(5/5)

【読了】2018年9月7日

【書評】

 数学者が語るAIの今と人の未来。


 話題の本でがっつり興味のある分野なので読んでみたが実にたーのしー。読書ってこんなに楽しかったんだ。


 AIはコンピュータプログラムだから、それが変わらない限りどんなに進歩しても与えられたフレームでしか課題を解けないし、解く方法も論理、確率、統計の数学的手法のいずれかでしかない。極論すれば文章問題は意味を理解しなくても人間に解を提示できる。Googleフォトで「猫」と検索すれば自分の写真から猫が写っているものをほぼ確実に検索できるが、Googleフォトは猫がなんであるかは知らない。


 では、と、意味を理解できる人間の方は、と試したら読解力は教科書が読めないレベルの人が予想以上に多かった。しかし、読解力はスキルである。適切に訓練すれば高めることができる。AIに仕事を奪われないためにはこれは重要だ。


 という流れ。しかし読解力を高める方法は研究途中として示さない。どこまでいっても学者の本。


 そしてベストセラーである。多くの人に読まれるということは当然その中のかなりの割合が本書のRSTで低いランクに該当してしまう。書評を見ると読解力不足の見本市になっていてまた楽しい。ベストセラーじゃないと書評欄はこうはならない。


 曰く「貧困は読解力に悪影響を与える」と「経済状況と読解力は負の相関がある」は矛盾してますね編集者読解力ないですね<お、おう(流れからして経済状況の横軸は就学補助率です)。


 曰く「ベーシックインカム導入がいいと思うが作者は否定的。なぜ反対なのか詳しい説明がない」<いや代案で十分説明になってなくない?


 RSTにハッとさせられるのは戸田市の先生ばかりではなく、自分もいくつかひっかかった。中でもグルコース・セルロース問題は怖い。ナチュラルに空欄に「グルコース」って入れて先に進もうとして、「ま、まて、セルロースとペアになる単語はデンプンだ」と化学知識でようやく切り抜けた。


 逆に言えば、リーディングスキル向上のヒントはそういったところにあると思う。コンピュータはテキストからしか考えることができないだろうが、ヒトは文章問題に化学の知識を持ってきてもいいし、図に書いて考えてもいいし、あらゆる人生経験を探ればなにがしか答えがあるはずだ。


 読解力はスキルで誰でも訓練により高めることができるというのは、絵を描くことがスキルで視力と普通の手先があれば誰でも可能ということからの類推。


 AIによる恐慌はあるのかないのかわからない。しかし、本書の後ろにあるように、人生を豊かにすることを考え、そのための道具として進歩したコンピュータを使うことを考えていけば、きっと明るい未来が拓けるだろうという気がする。


 ヒトは大脳新皮質という内なる情報ツールを利用して生きている。これをもっとうまく使えれば(リーディングスキル向上などが該当)、外部の情報ツールももっとうまく使っていけるだろう。

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