第22話 断章:カルス

 タブラ・スマラグディナ。支配の神器と呼ばれる石板。

 ゴルディアス半大陸に割拠するアニマ諸国において、歴史上タブラ・スマラグディナを保有する国が盟主として君臨してきた。この世界は、マナと呼ばれる魔力が基礎となっており、マナは、各都市が信仰する神々によって与えられていると伝えられている。

 タブラ・スマラグディナは、そのマナを広範囲強化することにより、人々の心身を活性化し、作物の実りを増やす。1,000年前に時の王により制定されたアニマ聖典によると、それは神話時代の終わり、人の時代の始まりに神から与えられたもうた神器だという。

 マナの活性化以外にも、ライブラ、人の世を治める法や深淵の知識を参照する機能や、コムニス、軍事において、通信をつかさどる機能など、王が国を支配するのに必要な多くの機能を有する。

 そんな王家に都合がよすぎる道具が神器であるとするならば、神の意思とはなんなのだろう。そして、神話の時代、人と交わり存在してたはずの神々、アニマ神族はどこへ行ったのだろう。

 そんな神代と人の歴史とが分かたれる分岐点。歴史には語られていない一幕。

 

「シャルキン、馬鹿なことはやめるんだ!」

 海上に作られた巨大な神殿の祭壇で、人族の王シャルキンと神カルスが対峙していた。白く、ゆったりとしたローブを纏い、いかにも魔導士然としたシャルキンに対して、神カルスは銀色の髪をたなびかせ、手にはマナを注ぐことで威力が無限に上がる愛剣フィアローゼンが握られている。

 祭壇の周りには巨大な魔法陣が描かれ、シャルキンの手には薄緑の光を放つ石板がある。

「神カルス。あなたたちアニマ神族は、いつもいつもそうやって上から目線で人族を見下す。我々人族は、あなたたちの愛玩動物ではない。」

「そんなつもりの神はいない!人族が幸せに暮らしていける世界であるように、そう思って僕らは世界を作ってきた!」

「それが上から目線だというのだ。力さえ、マナがもたらす力さえお前たちから奪えば、我々人類は、自分たちの歴史を紡いでいくことができるのだ。お前ら神にはわからぬよ。これから、お前たちアニマ神族のマナは神器の中に存在を封印される。人類は神器を通じてマナを得て、今のお前たちと同じように世界の主として生きていくことができる。そして、私は力から分離されたお前たちの叡智をこの、タブラ・スマラグディナナに封じ、人界の王として君臨しよう。」

「ふざけるな!人類がマナを欲するなら、方法はいくらでもある。お前のやり方は結局支配欲に言い訳をつけているに過ぎない。そんなもののために犠牲にされてたまるか。」

「ふん、なんとでも言え。すでに秘法は完成されているのだ。」

 シャルキンが手を振りかざし、唱えた。

「秘法、ワールドエンド。」

 魔法陣から光がゆらゆらと立ち上り始め、気づくとカルスは光に絡めとられていた。世界中で、同胞である神々が次々と封印されていくのを感じる。

 このままだと自分もまずい。カルスは逃れようともがくが、光を振りほどけない。

「安心してください。あなたに邪魔されると面倒なので、一足先に封印ではなく、死んでもらいますよ。」

 そう言って、シャルキンは傍らに置いてあった神殺しの槍を取り、カルスに向かって投擲した。

 槍がカルスを貫こうとするまさにその時、カルスの体から白いまばゆい光が放たれた。時を司る神、カルスは、咄嗟に力を行使して時空を超える。空間全体がブレたような錯覚を覚えた次の瞬間。カルスは祭壇から掻き消えた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 11:00 予定は変更される可能性があります

アニマ戦記~神ですが、未来に飛んだら記憶を失ってました~ ガエルネ @GaerneC

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ