てるてる坊主切り裂き事件

幸まる

てるてる坊主の証言

朝、目覚まし時計が鳴り、真菜まなは飛び起きてカーテンを開いた。

この時期の早朝は、まだそれ程明るくはない。

しかし、それに輪を掛けて、どんよりした雲が空を覆って薄暗さを増していた。


「え〜、雨が降るのかなぁ」


今日は校外学習の日で、小学校から歩いて大きな公園まで行く予定だ。

秋を感じられるものを見つけるという総合学習で、ミニ遠足みたいで、とても楽しみにしていた。

ポツポツの小雨なら、傘を差して校庭で行う。

大雨なら中止だ。


数日前、週間天気予報の傘マークを見て、真菜は張り切って“てるてる坊主”を作ったのに、効果はなかったというのだろうか。


真菜は急いで部屋を出て、居間の出窓に吊るしてあった てるてる坊主を確認した。


「あっ! 何これ、ふれふれ坊主になってるじゃん!」


てるてる坊主は、ほとんど頭だけの状態になって、逆さを向いていた。

まるで、雨を願う“ふれふれ坊主”だ。


ティッシュペーパー二枚で作った てるてる坊主は、一枚を丸めて、もう一枚を被せて輪ゴムで括っていた。

それだけだと頭が重くて逆さを向いてしまう。

だから真菜は工夫をして、青い色紙をスカートのように円錐形に貼り付け、重みを足して吊るしたはずだった。

それなのに、今はその色紙がズタズタに裂かれてほとんどなくなり、重さが足りずに逆さになっているのだ。


「ひど〜い! 絶対ポンちゃんのしわざでしょ! ママ〜、見てよ〜!」


真菜は台所にいる母親のところに駆けて行った。




○ ○ 




うううっ、そうッス、そうなんッスよ!

アイツ、アイツが犯人なんでッス!

犯人?

いや、犯鳥と言うべきッスか?

ママさんの飼ってるアイツ、コザクラインコのポンの奴でッス。


せっかく真菜ちゃんがカッコよく作ってくれたってのに、ポンの奴、ガジガジ齧ってボクちゃんを巣材にしやがったんッス!


知ってまッス?

コザクラインコ。

アイツら、巣作りする時に紙を細長く切って巣に運ぶッス。

ポンの奴、かわいい顔してボクちゃんの体をぜーんぶ細切りにしたッスよ!

ひどいッスよね!?


『やめろ〜、ボクちゃんの体なんだぞ』って抗議したら、これ見よがしに細切りの紙を腰に差して、お尻フリフリしやがったッスよ!


それでボクちゃん、体が軽くなって、頭が重くてひっくり返ったッス。

おかげででふれふれ坊主になって、晴れパワーをお天道様に送れなくなったッス。

大ピーンチ!

もう雨が降りそうッス!

てるてる坊主として生まれたのに、この屈辱!


この上はなんとか腹筋を鍛えて頭を上に上げるッス。

……って、ボクちゃんの腹筋、ポンの奴が細切りにしたんだったッス!

うぎゃ〜っ!

ムカつくッス〜!




○ ○




「よし、できた!」


真菜は、手にしていた てるてる坊主を吊るし直した。

今度は、小花の柄付き色紙が体になっている。


「晴れとは言わないから、せめて雨は降らせないで。お願いね」


真菜は指先でツンと突いた。

新しい体の てるてる坊主は、胸を張るようにくるくると回る。

「あ、行かなくちゃ」と慌てて、真菜はランドセルを背負って玄関へ向かう。


「ママ、てるてる坊主、ポンちゃんに齧らせないでよ」

「はいはい」

「いってきま〜す」

「いってらっしゃい」


真菜を送り出すと、母親は朝の家事に戻り、きりの良いところで居間の隅に置いてあるケージのカバーを取った。


「おはよう、ポンちゃん」


チッチッ 


緑色のツルンとした頭と、丸っこいフォルム。

額から胸は赤味がかったオレンジ。

くりりとつぶらな瞳を輝かせ、鮮やかな青い尾羽根をぷるりと震わせる。

愛嬌のある仕草で、飼い主である母親に“おはよう”を表現したコザクラインコのポンは、早速ケージの出入り口近くに移動して可愛らしく鳴いた。


チュリッ チュリン


「うふふ、今日も元気ね」


母親はポンをケージから出した。

朝の放鳥自由時間だ。

ケージの中をチェックし、水入れと餌を取り替える母親の肩に止まり、ポンは嬉し気にさえずっている。

コザクラインコは、“ラブバード”と呼ばれる程に愛情深い鳥なのだ。




ピー ピー


「あら、洗濯機が止まったわ」


母親は指にポンを乗せ、低い棚上に置かれた止まり木に移動させた。

チリンと音の鳴る小さなボール状の鳥用玩具と、縄梯子が吊るされた、ポンの遊び場だ。

ポンが機嫌よく遊び始めたのを見て、母親は頬を緩めた。


「ふふ、ちょっと遊んで待っててね」


母親は、居間を出て扉を閉めた。




○ ○




新しい体を手に入れたッス!

さすがは真菜ちゃん、かわいい花柄ッス。

やる気出たッス。

よ〜し、今から晴れパワーをお天道様に送るッス!

真菜ちゃん、きっと晴れにしてみせるッスよ!


ほぉわ〜、パ〜〜ワ〜〜ッ!!



『ふふ、ちょっと遊んで待っててね』



……え?

ママさん!?

ちょ、ちょっと、ポンを置いて行かないでッス!


あっ、ポン、何見てるッスか!?

わっ、来るなっ、こっちに来るなッス!


バサバサバサ…


やめっ、あっ!

や〜め〜て〜〜〜……




……ポツリ、雨が降り出した。




《 おしまい 》



※ 思わぬ事故が起こらないよう、放鳥中はインコから目を離さないようにしましょうネ。


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