『ホームシェアキーパー』 〜僕の部屋は異世界〜

荒野の高等遊民5号

第1話

第1章:勇者と魔法使い、そして隣の部屋


「よし、今日も完璧だな」

彼方勇作は、掃除機を片手にリビングの隅

を見渡した。山田家に派遣されてきたシェ

アハウスキーパーとして、彼は初日から抜

かりなく働いていた。


「ありがとう、勇作くん。ほんと助かるわ」

たかこが笑顔で声をかける。

「いえ、当然のことです。お世話になりま

すから」


勇作は礼儀正しく頭を下げると、自室に戻

った。

夜。彼はパソコンを立ち上げ、異世界RPG

の世界へと没入する。


「よし、今日こそパーティーメンバーを見

つけるぞ……」

ゲームの中で、彼は“勇者ユウ”として森を探

索していた。すると、木陰からおどおどした

少年が現れる。


「誰だ……近づくな!」

少年は突然、ファイアーボールを放った。

「うわっ、強っ……!」

ユウは驚いたが、次の瞬間、電撃魔法が

直撃し、画面が真っ赤に染まった。

「やられたか」


画面が暗転する。だが、すぐにヒール魔法

が発動し、ユウのHPが回復していく。

「え……助けてくれたのか?」

ユウが目を開けると、魔法使いの少年が目

の前に立っていた。

「君……名前は?」

「言えない」

勇者が魔法使いに飛び掛かった。


その瞬間、現実の隣の部屋から

「わあーっ!」という叫び声が響いた。

「えっ!?」

勇作は椅子から飛び上がり、隣の部屋の

ドアをノックした。


「さとしくん、大丈夫か?」

ドアを少し開けたさとしが

「大丈夫です」

と言ってすぐドアを閉めた。

(まさか……)


数日後、同じような出来事が何度か起こっ

た。ゲームの中で魔法使いが驚くと、現実

の隣の部屋からも声がする。


ある夜、ユウは魔法使いに問いかけた。

「君は……もしかして、さとしくん?」

「えっ……どうして?」

「君が驚くと、隣の部屋からも声がするん

だ。ゲームとリンクしてるみたいでさ」

「そんなこと、あるわけ……」

「こんど、一緒にゲームしないか?」


沈黙のあと、魔法使いは小さくうなずいた。

現実でも、勇作はさとしの部屋の前で声を

かけた。


「さとしくん、いっしょにやろう。

俺、君のパーティーメンバーになりたい」

「ほんとに?」

「もちろん。俺、勇者だからさ」


それから二人は、ゲームを通じて少し

ずつ心を通わせていった。


ある日、さとしがぽつりと語った。

「小学校では、友達いっぱいいたんだ。

でも、中学になって、みんな別の学校に

行っちゃって……」


「それで、話しかけづらくなったのか」

「うん……ずっと一人だった」

勇作は真剣な顔で言った。

「俺が君の友達になるよ。だから、安心

してくれ」

「ありがとう」

その言葉に、さとしの表情が少しだけ柔ら

かくなった。


第2章:勇者の隣人、魔法使いの素顔


「さとしくん、今日のクエストは“迷宮の

試練”だ。準備はいい?」

「うん……たぶん」

「たぶんじゃない。勇者と一緒に行くんだ

から、絶対大丈夫だよ!」


「うん、わかった勇作さん」

夜のゲーム画面には、勇者ユウと魔法使い

サトが並んで立っていた。現実の二人も、

並んで座ってキーボードを叩いている。

「ファイアーボール、いける?」

「うん、撃つよ!」

画面の中で炎が炸裂し、敵モンスターが消

し飛ぶ。


「ナイス!さとしくん、魔法のタイミング

完璧だった!」

「えへへ……ちょっと練習したからね」

「その調子だ。君の魔法、ほんとに頼りに

なるよ」


ゲームが終わると、さとしはぽつりと

つぶやいた。

「こんなに誰かと話したの、久しぶり

かも」

「そっか。俺は毎日話したいけどな」

「ほんとに?」

「もちろん。だって、君は俺のパーティー

メンバーだし」

その言葉に、さとしは小さく笑った。


翌朝、リビングで朝食を作る勇作に、

たかこが声をかけた。

「最近、さとしが少し明るくなった気が

するの。何かあった?」


「ゲームです。僕と一緒に冒険してるん

ですよ」

「ゲーム……?」

「異世界RPGです。彼、魔法使いの役が

すごく上手で」

「へぇ……そんなことで変わるのね」

「ええ。ゲームの中では、彼は勇敢で

優しい魔法使いです」


「現実でも、そうなってくれるといいわね」

「きっとなりますよ。僕、信じてますから」

その日の夕方、さとしがリビングに顔を出

した。


「お母さん、今日の晩ごはん、何?」

「えっ……さとし?リビングに来たの?」

「うん……勇作さんに手伝ってもらって、

ちょっと料理してみたいなって」

「うれしい。じゃあ、いっしょに作ろ

うか」

「うん!」

勇作はそっと微笑んだ。

(これが、勇者の本当のクエスト

なのかもしれないな)


第3章:勇者の隣で、魔法使いは歩き出す


春の風が窓を揺らす午後。リビングでは、

勇作がさとしのノートを広げていた。

「この英語の文法、ちょっとややこしい

けど、ここは“過去完了”ってやつだよ」

「うん。わかる気がする」


「さとしくん、すごいじゃん。昨日より

ずっとスムーズだよ」

「勇作さんが教えてくれるから」

「いやいや、君の努力だよ。俺はちょっ

と手伝ってるだけ」

さとしは小さく笑った。


「学校、行ってみようかなって思ってる」

「ほんとに?」

「うん……まだ怖いけど、ちょっとだけ

……行ってみたい」


「よし、それなら俺が朝、見送るよ。

勇者の見送り付きだ」

「それ、ちょっと恥ずかしいかも」

「じゃあ、魔法使いの透明マントをかけて

見送るってことで」

「それならいいかも」


翌朝、玄関でたかこが驚いた声を上げた。

「さとし……制服、着てるの?」

「うん。ちょっとだけ、行ってみよう

かなって」

「うれしい。ほんとに、うれしい」


勇作がそっと背中を押す。

「いってらっしゃい、魔法使い」

「いってきます」


その日、さとしは半日だけ登校した。

帰ってきた彼は、少し疲れた顔だったが、

どこか誇らしげだった。


「みんな、ちょっとびっくりしてた。

でも、話しかけてくれた子もいた」

「それは大冒険の第一歩だね」

「うん……次は、もう少し長く行けるかも」


その夜、ゲームの中で魔法使いサトは

新しい魔法“ブレイブライト”を覚えていた。


「この魔法、勇気を与えるんだって」

「ぴったりじゃん。君にこそ

ふさわしい魔法だよ」


次の日、山田ひろしが仕事から帰宅し、

リビングで勇作に声をかけた。

「勇作くん、いつもありがとう。

家のことも、さとしのことも」


「いえ、僕はただ……ここに住まわせて

もらってるだけですから」

「いや、もう“住まわせてもらってる”って

感じじゃないよ。君はもう、うちの一員だ」

「……そう言ってもらえると、すごく

うれしいです」

「これからも、よろしく頼むよ」

「はい!」


その夜、さとしがぽつりとつぶやいた。

「勇作さんが来てから、家がちょっと

明るくなった気がする」

「俺も、ここに来てよかったって

思ってるよ」


「ありがとう」

「こちらこそ。さとしくんが魔法使いで

いてくれて、ほんとに助かってる」

「じゃあ……これからも、

   パーティー続けてくれる?」

「もちろん。ずっと一緒だよ」


―おわり―


挿絵付きnoteへリンク

https://note.com/witty_gnu512/n/n809dd829cd75

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