てるてる坊主の証言

十四たえこ

第1話 てるてる坊主の証言

 降り止まぬ雨の下、彼女は、白いシーツを頭から被せられ、森の茂った木々が重なりちょうど雨やどりができる一角に吊るされていた。さながらてるてる坊主のように。

 「見立て殺人、ですな」

 加藤刑事はそう呟くと、遺体の横にぶらさがっているてるてる坊主を摘み上げる。

 「ああっそんな無造作に」

 山田刑事はわたわたとポケットから白いハンカチを取り出して渡すが、加藤刑事は鼻で笑った。

 「現場保存して何になる。ここでは科学捜査も何もあったもんじゃない」

 加藤の言葉を受けて、まだ若く見えるエルフの長はわずかに微笑んだ。


 張り込みの最中にエルフ達に召喚されてしまった加藤と山田である。異世界でも事件を引き寄せる体質は変わらないようだ。


 加藤はエルフの長と連れ立って遺体をおろした。確認のため一度顔を改めたが、首吊りの遺体がむごたらしいことは、エルフも人間も変わらないようだった。ピンと尖った耳だけが、エルフと主張していた。

 「魔法のない世界では、そのようにソウサをされるのですか」

 山田は科学捜査を諦めきれず、手作りのアルミの粉を持ち出し、指紋を採取しようとしたが、現場に指紋は残されていなかった。

 地面はぬかるみ、来た時は第一発見者の足跡があったが、既に雨に洗い流されている。この雨は二人が来るより前から、この数週間ずっと降り続いているそうだった。

 「この世界では、どのように捜査するんです?」

 「ソウサというのとは違うかもしれませんが、証言が全てですね」

 「なんと野蛮な。客観的な証拠もなしに証言のみで決めてしまうのですか」

 「野蛮でしょうか」

 「嘘や誤解があるのが証言の基本です。疑ってかからねば。とくに第一発見者というのは」

 「その辺にしておけ」

 加藤に諌められ、山田は縮こまる。

 「しかし証言というと、誰から?」

 「ここにいるでしょう」

 まだ若いエルフの長は、加藤の手からてるてる坊主を取り上げた。

 「てるてる坊主?」

エルフの長は、何か唱えながら地面に魔法陣を描く。その中央に、てるてる坊主を載せた。

 「てるてる坊主よ、答えなさい」

 『なんでしょう』

 場にそぐわない晴れやかな少年の声が響いた。

 「そなたが見たものを全て述べよ」

 てるてる坊主は、少し空を眺めた。雨が弱まり始めていた。

 『私が作られたのは半月ほど前、何日も降り続く雨の日でございました。異世界のまじないを集めた書物より、選び抜かれたのが私でございます。私は、晴れのおまじないでございました。』

「あ」

 と山田がつぶやく。

 「そうか、ここではてるてる坊主は知られていないのか」

 『お嬢様は、それはそれは晴れを心待ちにしておりました。なぜなら次の晴れの日に、最愛の殿方と結婚式を挙げることが決まっていたからでございます』

 後藤は鼻を鳴らした。そんな天気次第のプランでは参列者が困るだろう。この国は皆暇なのか?

 『しかし、婚約者様は結婚を望んではいらっしゃいませんでした。というのも、婚約者様が、雨が降り続くようにまじないをかけていたことがわかったのです。それがこの長雨の原因でございます』

 「やけに続くと思っていたら、まじないがかけられていたのですね」

 エルフの長は、呑気にもそう言った。

 『それに気づいたお嬢様は、不審に思いました。永遠に雨を降らせておくわけにもいかないでしょう。婚約者様が、この雨の最中にと疑ったのです』

 「結婚しようという相手でしょう。愛し合ってはいないのですか」

 山田が理想論を吐き、エルフの長は不思議そうに眉を上げた。てるてる坊主が答える。

 『結婚は、家と家を結ぶ儀式でございます。お嬢様は婚約者様のことをお慕いしておられましたが、婚約者様には別の御相手がいたようでございました』

 「それでは、っていうんですか?」

 

 『いいえ、まだ続きがございます。お嬢様はそれを知り心を病んでしまわれました。何がなんでも空を晴れさせようと、もう一度書物を確認していたところ、てるてる坊主のまじないも元は人身御供を立てたことから始まったと知ったのでございます』

 「そうなのか?」

 「さぁ」

 「異世界の記録ですから。不正確なこともあります」

 エルフの長が答える。

 『そこで、お嬢様は考えたのでございます。なんとしても晴れさせるためには、人身御供が必要だと。すっかりまじないに取り憑かれたようになっていたお嬢様は、シーツと荒縄を用意すると……自ら』

 てるてる坊主はすすり泣いた。

 『私が、わたくしめが、力及ばないばかりに!!あたら若い命が!!!』

 その慟哭は、雨を突き破り、一筋の晴れ間が差し込んだ。雲が急速に流れ始める。


 「自殺なのですね……。見立てではなく、命をかけて、晴れを祈った儀式だったわけですね。ああ、せっかく晴れても、むなしいだけだ」

 山田刑事はゆっくりと呟いた。加藤は意外そうに笑った。





 「。被害者は婚約者の恋人ってところか?近日挙式を上げる予定のエルフを探すことだな」

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