第5話 寝床
ミヤトは、普段はダイニングのテーブルやキッチンに居て、夜はリビングの隅に丸くなって眠っている。
まるで、リビングの隅に、私には見えないケージでもあるように。
そこだけが自分の身の置き場みたいに。
だから、そんなミヤトが
「お部屋、借りてもいいですか?」
と自分から聞いてきたときには心底驚いた。
此奴がうちへ来て3週間。ずっと「ここがお前の部屋だよ」
と小部屋を案内していた。
クローゼットと、机と空き本棚とベッド。
子どもの勉強部屋兼寝室として、必要最低限のものはある。
でも、うちの黒い猫はそのたびにソワソワして、
「自分の部屋とか、落ち着かない」
なんて言って、リビングの隅で丸くなっていた。
教科書やノートは本棚とか机の上に置くものだと教えたら、それには素直に応じたけれど。
寝床は使い慣れた寝袋が安心するようだった。
じっと身を丸くして、こちらに背を向けて。気配を消して眠るのだ。
でもある日、風邪を引いて高熱を出したミヤトを、無理やりにベッドへ押し込んだ。
「ごめんなさい、熱なんかだして」
謝り続けるミヤト。
でも、耳を伏せて背を丸め、怯えながらシャーッと威嚇する黒い猫がそこに居た。
何をそんなに警戒しているんだ、全く。
氷枕を作ってやると、
目を瞠って、しばらく頭をもぞもぞして、その冷たさと氷のゴツゴツした感触を探っていた。
白粥に少し鰹出汁をかけて食べさせてやると
「うまい……」
と言って、うにゃうにゃ笹鳴きながら食べていた。
やはり、猫に鰹節は鉄板らしい。
そうして此奴が風邪から回復した後。
「やっぱり、お部屋借りてもいいですか?」
と来たもんだ。
この猫はやっと、ベッドの良さを知ったらしい。
黒い猫と暮らして 日戸 暁 @nichi10akira
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