魔人キコウ録

人の域を超えた力。
その力は、後世に語り継がれる数々の逸話を生んだ。

ある男は手を上げただけで海を割り、
別の男はわずかな食べ物で五千人の腹を満たした。
ある少女は神の声を聞き祖国に勝利をもたらし、
ある少年は海の上を歩いた。

──これらは、ほんの一例に過ぎない。

人々は彼らを“奇跡”と呼んだ。
だが“奇跡”は“異能”となり、そして“恐怖”へと変わっていく。

時は一七四世紀前半。
かつて“奇跡”の体現者だった者たちは、今やこう呼ばれていた。

「魔人」

その存在を恐れた人々は、魔人を社会から切り離し、迫害の対象とした。
魔人に許された唯一の安全──それは、

「魔人であることを知られないこと」

力を隠し、息を潜めて生きるしかなかった。
社会は魔人への恐怖と偏見に満ちていた。

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