エピローグ:永遠の響き

大学卒業から数年後。


春の穏やかな日差しが降り注ぐ中、遙たちは母校のグラウンドに集まっていた。


それぞれの夢を叶え、再び集った仲間たちの笑顔が眩しい。


奈緒はプロを引退し、スポーツキャスターとして活躍。

雪乃は世界的なギタリストとしてステージに立ち、結衣はデータ分析官から大学准教授へと道を歩んでいた。


杏奈と恵美は母校のコーチとなり、「ハーモニーの精神」を次の世代へ手渡している。


美咲もまた、鈴村のチームでの活動を経て、今は学生コーチとして後輩たちを指導しているという。


美咲は、かつての傲慢な表情は消え、穏やかな笑顔で遙に深々と頭を下げた。


「遙先輩、みんな、ありがとう。今は、鈴村さんと共にクラブチームで、孤独を抱える選手を支えています。あの時、遙先輩たちが教えてくれた『絆』の大切さを、後輩たちに伝えています」


遙は美咲の肩に手を置き、笑顔で迎えた。


「美咲、本当におかえり」


その三年後、遙が国際舞台でトップを目指していた頃。


――ある日、遙は静岡の海辺を訪れた。和子コーチが初めて声をかけてくれた、あの場所。


潮風に髪を揺らす和子コーチが微笑む。


「遙、また考え込んでるのね」二人は並んで海を見つめた。


「“不協和音からのハーモニー”って、完璧を求めることじゃないんですね」


「そう。不完全だからこそ響くの。弱さが重なって、初めて音になる。それが絆よ」


遙は静かに頷いた。

「この響きを、世界中に広げます」


翌日、国際大会。遙は日本代表のアンカーとしてスタートラインに立った。


その夜、遙のスマートフォンにメッセージが届く。


結衣:「データじゃなく心で走って。それが私の証明したいことよ」

雪乃:「完璧じゃなくてもいい。私のギターのように、魂を響かせて」

奈緒:「私たちのハーモニー、永遠に続くわ」

杏奈:「バトン、しっかり受け取ってます」

恵美:「最高の走りを見せてください」

美咲:「遙先輩、ありがとうございます」


遙は微笑み、画面を指で優しく撫でた。

「みんな……ありがとう」

号砲が鳴り、バトンが繋がる。風を切り、遙は疾走した。歓声の中、彼女はゴールテープを切った。


――勝った。


涙が頰を伝う。

「やった……みんな、ありがとう!」


仲間たちが駆け寄り、抱きしめ合う。


和子コーチは静かに頷いた。その表情には、すべてを見届けた穏やかさが宿っていた。




長い時を経て、遙が現役を退き、国際連盟の理事として母校のグラウンドに立った春の日。


遙はマイクを握り、新入生たちに穏やかに語り出した。


「私は佐藤ヤンセン遙です。この場所で仲間に出会い、走る意味を見つけました」


「陸上は個人競技。でも、一人では強くなれません。違う音が重なり、支え合ってこそ――本当のハーモニーになるんです」


遙に憧れて入部した少女、山田リナが目を輝かせる。


遙は微笑んだ。

「リナ。あなたは一人じゃない。ここには仲間がいる。絆は、響き続けるから」


夕方、海辺。和子コーチが遙に言う。


「あなたが繋いだ絆が、次の世代を動かしているわ」


夜空には満天の星。


波音の向こうで、雪乃のギターの美しい旋律が優しく響いていた。


『不協和音からのハーモニー』――それは、終わりではなく、永遠に続く新たな始まりの音だった。




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不協和音からのハーモニー 籠目 @kagonome

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