なぜ僕は生き絶えたのか?

@AsuAsaAshita

死んだ

起きた時には死んでいた。

僕は息絶えていた、この旅館の中で。


僕は温泉旅行へ来ていた、一人で。

特殊な効能のお湯らしい。

秘境の中の旅館で、周りには畑と自然のみが広がっていた。

たまの休日にゆっくりしようとした。


しかし、その中で客の一人が死んでいた。

温泉に入ったあとで。


死んだ彼女は血でダイイングメッセージを書いていた。


「たすけて 。くる」

そう書いていた。


僕たちは焦り、逃げようとしたが電話線は切られており、突然嵐が来たので帰ることも警察に電話することもできない。

しかし夜遅く皆疲労していたので、とりあえず各自部屋に帰り眠ることにした。


そして起きた時、僕は殺されていた。


誰かに。

誰かはわからない。


しかし予想外の、驚愕のことが起こった。

死んだ僕は幽霊、亡霊としてこの世に残った。

この世界に留まることを許されたのだ。


なぜか?


殺された無念によるものか、"何か"に対する怒りなのかわからないが、これなら真相がわかる。

わかったところでどうしようもないが、とにかく知りたい。

僕をなぜ殺したのか、誰が殺したのか知りたい。


そして部屋中を見て回ると、なるほど皆僕に気づかない。


本当に幽霊になってしまったようだ。


この旅館には客・従業員含めても十人もいない。

この力があれば犯人がわかり、もしかするとこれからの惨劇を防ぐことができるかもしれない。

僕は頑張って部屋を回る。


しかし、おかしい。皆、どこか落ち着かない様子ではあるが、平穏に過ごしている。

何か変わった行動をしている者がいない。


なぜだ? 犯人はもう計画を終えたのか?

そう思っていると悲鳴が聞こえた。


料理長とその下っ端が血を吹いて死んでいた。


なぜだ?

その二人はメモを残していた。


「わかったぞ 」


衝撃の事実だったのかもしれないが、意味がわからない。


そう思っていると客の一人が半狂乱になって部屋にこもった。


しかし僕は壁を抜けられるので関係ない。

部屋にはその人しかいなかった。怯えているだけだ。

この人は大丈夫だ。

仕方ないので他の部屋や他の人の行動を探ることにした。



結果的には決定的な証拠を持つ人はいなかった。

おかしい、こんなにもヒントを残さないものなのか?

まさか外に潜んでいるのか? いや不可能だ。水の跡が床や周りに残るはずだ。


しかし真相もわからぬまま惨劇は続いた。

そうして生者は三人しか残らなかった。

三人は互いを疑い、パニックになった。


おかしい、どういうことだ。

見落としがあったというのか?

しかし確認したところ、怪しい素振りをした人は一人もいらなかった。


まさか、まさか僕のような幽霊が?

それなら不可能ではない。

しかし幽霊の僕は物・人に干渉できない。

同じ存在が犯人だとしても、殺人ができるものなのか?


そしてその三人は殺し合いを始めた。

もう何もかも信じられなくなったらしく、乱心していた。


僕には何も止めることができなかった。

悔しい。せっかく世界が僕をこの世に残してくれたのに。

仕方なく僕の死体の場所に行き、僕を見る。

感覚でわかる。もう僕は消える。あの世につれてゆかれる。


あれ、これはなんだろう。


僕の死体の枕元に、メモが落ちている。

死ぬ間際に書いたものか?

覚えていなかったが、一心不乱に書いていたらしい。

僕はそれに触れることはできない。だが、読むことはできる。

そのメモを見て、すべてを思い出した。


そうだ、犯人は——。





_____________________________________

先日発生した旅行客の死亡事故です。

原因は温泉から発生される特殊な成分に含まれる粒子を吸ったことによる、精神の過剰な暴走、乱心による自決であると確定しました。

_____________________________________




そうだった。

犯人などいなかった。

皆、狂って自殺をしていたのだ。

この温泉のせいで。

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