父さんはスーパーヒーロー
🌸春渡夏歩🐾
戦わないヒーロー
父さんは嘘つきだと思っていました。
◇
子供の頃、私を膝の上にのせて、父さんはよく言っていました。
「僕は仮面ライダーだったんだよ」
「ホント?! 父さんって、カッコいい」
私は単純に信じていたのです。
「僕は改造人間だから、赤ちゃんを授かるのか心配だったんだけど、可愛いナオちゃんが生まれたときは、本当に嬉しかったなぁ」
すりすりと寄せる頬に、じゃりじゃりした髭の感触。
「ライダー1号はいい男でさ、今はたくさんの子供達がいて、素敵な家族と暮らしてるよね」
「2号は歳を重ねても変わらず、ダンディな男だし」
「V3は、仮面ライダーを引退した後、時代劇で成功したね。ライダーの経験が活きて、アクションがカッコよかった」
「アマゾンは、やっぱり都会は合わなくて、故郷に帰ったけど、楽しく暮らしてるって言ってた」
父さんと一緒に、よく仮面ライダーのビデオを観ていました。
「ねぇ、父さんは、何ライダーだったの? 必殺技は? ライダーベルトはどこにあるの? 今度、変身して見せて」
「う……ううん。世界征服を狙う悪の組織は、いなくなったからねぇ。もう変身する必要はないんだ。父さんはテレビには出ていない秘密のライダーだったのさ」
私は、なんだか父さんの言うことは怪しいと、少しずつ思いはじめました。
父さんって、嘘つきなんじゃない……?
◇
おばあちゃん
「仮面ライダー?
おばあちゃんは、あははと大きく笑ったあと、
「そうねぇ、確かに大好きだったねぇ。友達がライダーベルトをクリスマスに買ってもらっても、ウチは買えなくてね。自分で何やら作ってたみたい」
おばあちゃんは、古いアルバムをひっぱりだしてきて、見せてくれました。
そこには、子供の父さんが腰に何やらベルトらしきものを巻いて、嬉しそうにVサインをしている写真がありました。首には、手編みの赤いマフラーがぐるぐる巻きになっています。
「このあと、ライダーごっこをして、ジャングルジムから飛び降りて、頭を縫う怪我をしたのよ。病院で、ライダーは泣かないんだって、涙を我慢して。髪で隠れてるけど、今でも傷跡が残っているはずよ」
おばあちゃんは、懐かしそうに笑ってました。
「思い出させてくれて、ありがとうね」
◇
父さんは、学生時代に「仮面ライダー研究会」の会長をしていたらしいです。
母さんは、新入生説明会のあと、強く勧誘されて、入会したとのこと。
何故かというと……。
「私の初恋の相手は、仮面ライダーV3だったから」だそうです。
それがふたりの出会いです。
そういうわけで、ずっと仲良しのふたりです。
「母さん、父さんが仮面ライダーだったというのは、思い込みの嘘なんでしょ? だって、テレビに全然、映ってないもの」
「嘘じゃないわよ。見せてあげる」
母さんはビデオをセットして、画面を指差しました。
「ほら、ちゃんと映っているじゃない?」
「え? どこに?」
…… 父さんは、仮面ライダーの中の人だったのです。
「短い間だったけど、スーツアクターをやってたことがあるのよ。仮面ライダーが好きすぎて、ヒーローショーのアルバイトをしてた」
「ええっ?!」
父さんが仮面ライダーだったというのは、本当のことでした。
◇
結婚したあと、なかなか子宝に恵まれなかったふたり。検査したら、主な原因は父さんの方でした。
「僕が改造人間だから、赤ちゃんが来てくれないね。ごめんね」
長い不妊治療の末に、ようやく私を授かって、父さんは号泣したらしいです。
◇
今でも父さんは、毎週、早起きして、欠かさず仮面ライダーを観ています。
「最近の仮面ライダーは、なってないなぁ。バイクに乗らないのに、ライダーを名乗っているなんて、信じられない。それに、敵だか味方だか、よくわからない話ばかりだ」
観ながら、ひとりでぶつぶつ文句を言っています。
それでも、仮面ライダーが大好きな父さん。
「仮面ライダーは、ウルトラマンと違って、戦闘中に家やビルを破壊したりしないから、そこがいいんだ」と、つまり、等身大のヒーローだから、気に入っているみたいです。
カラオケでは「またはじまった」と、皆からあきれられても、必ず仮面ライダーの主題歌メドレーを歌う父さん。
つい最近、今後は子供向けの戦隊モノ番組は、製作中止になるという発表がありました。
父さんの好きな仮面ライダーは、ずっと続いて欲しいと思います。
「僕は仮面ライダーだったんだよ」
今度、父さんがそう言ったら
「うん、知ってる。父さん、カッコいいね」
そう言ってあげようと思います。
世界平和のために戦う仮面ライダーの父さんも、家庭の平和を大切にしている普通の父さんも、同じくらいカッコいいです。
父さんが嘘つきじゃなくて、良かったです。
父さんは、私のスーパーヒーローです。
***終わり***
父さんはスーパーヒーロー 🌸春渡夏歩🐾 @harutonaho
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