妖怪あまてるおう
羽鐘
リズムを刻む妖怪
奥飛騨の山中。
草木も眠る丑三つ時に太鼓の音色が響き渡る。
どん、どん、どん、どん……
そのリズムは、人々を魅了し、吸い寄せ、そして死に誘う。
太鼓を鳴らすのは、伝説上と存在として口伝のみで知られた妖怪。
その名はあまてるおう。
ある高尚な僧侶は言う。
あまてるおうは概念である、と。
ある主婦は言う。
なんかそわっとする、と。
そしてある配信者はのたまう。
あいつのことは好きにしてもいい、と。
人々は歴史という残酷なまでの時間の流れの中で忘れてしまっていた。
あまてるおうの恐怖を。
人々は愚かにも過ちを繰り返そうとしている。
あまてるおうの再臨を。
◇ ◇ ◇
「なんですか、これ?」
僕はスマートフォンに刻まれた言葉を読み、呆れ顔で先輩を見た。
「ゲームの設定。ここまで考えたんだけど、続きが出てこねぇんだわ」
ゲラゲラと笑いながら先輩は、自作のあまてるおうのイラストを僕に見せてきた。
妖怪なのに、普通の人にしか見えない。
アフロヘアだし。
そもそも、音楽作って小説書いている妖怪ってなんだろう?
「もう一回聞きますけど、なんですか、これ?」
少しだけ強めに聞いた。
「いや、なんか適当にネタ書いてみて、面白いかなーって思ったんだけどさ。ここで止まってしまってさ。お前、続き考えてみない?」
先輩が、馴れ馴れしく僕の肩に手を置いてきたので、僕は強めに払った。
「いやですよ。僕だって暇じゃないんですから。あまてるおうって、なんか不思議な響きあるから結構魅力的な雰囲気があるし、この見た目からして親しみやすさがあるから人気が出そうですけど、この見た目で人を肝を喰らうような感じだったら面白そうですね」
僕は自分のシナリオを描きながら、適当なことを言った。
「お前さ、なんだかんだ言って親切だな。それ採用するわ」
先輩は途端に上機嫌になって、自分のデスクに戻っていった。
よくわからないことを思いつく先輩だなと、僕は溜息をつき、自分の創作に戻った。
僕の背後で、あまてるおうが見つめていることも知らずに……
妖怪あまてるおう 羽鐘 @STEEL_npl
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