90°

第1話

朝決まって七時半に目を覚ますように、ピンク色のアイシャドウを瞼に落とすように、規則化されたことを繰り返す彩りのない生活サイクルの中で、私は恋に焦がれた。

そして、その恋の火種は消えてしまった。

 私は、消化出来ていない感情を靴底へ引っ掛けながら歩いている。

私たちは1人で生きていけるほど強くなれなかったし、1人で生きていけないほど弱くなれなかった。

真新しく生きていきたい。だから彼の色が染み付いた生活を全て捨てた。お揃いのマグカップ、お揃いのパジャマ、彼がくれたピアス、愛おしかった思い出の数々を床に落ちていたタオル、ワンピース色々なもので包んで、ゴミ袋へ投げ入れた。

身の回りの物を整理しても自分の気持ちは整理出来なかった。

「別れよう。」

彼が私にそう伝えた日は、泣いている私のことを、太陽まで嘲笑っている様な綺麗な晴天で太陽なんか無くなってしまえば、私の泣いている顔も見られずに済むのにと心の底から太陽の爆発を祈った日だった事を覚えている。

別れの理由は、本当に仕方がなく、くだらないもので性格の根っこの部分が全くと言っていい程に違うことだった。

 例えば、インドア派の私、アウトドア派の彼、邦画派の私、洋画派の彼、吹き替え派の私、字幕派の彼。こんなしょうもない些細な違いが、私たちの生活の歯車を少しづつ狂わせていた。

デートの場所決めで口争いになったり、好きの気持ちが彼は右折して、私は左折して、すれ違いが増え、互いのことを上手く愛せれなくなっていった。初めから不器用な私たちだから、伝えられる好きを越す愛を求めて言葉がだんだん歪んでいったのだろう。

不器用な私は彼のことを運命の相手だとずっと考えていた。

右頬にお互いほくろがあるとか血液型が同じだとか。そんな些細な偶然に大きな意味を持たせ、運命とこじつけて、好きな食べ物も育った環境も違うという事実に目をつぶって運命を盲信していた。

いくら泣いても、もう彼は帰ってこない。

心が高鳴り続けていた恋愛も、もう終わり。

彼と別れたその日、衝動的に整形外科に行き、右頬にある運命を焼き殺した。

傷口から血が流れた。私と私の運命は一日中泣き続けた。

そして傷口が乾くころ、私の中でようやく恋が死んだ。

今日の私は、新しい朝を見つめている。

太陽の光は、いちだんと輝いていて、とても綺麗だった。

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90° @01llsae3

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