エピローグ これは誰か一人に任せる紙じゃない
数か月後。
うちの「投資の書き方(やさしいほう)」チャンネルは、もう毎日賑わうほどじゃない。
千紗もノノも真白も、自分で4行+「2〜3%は動きます」を書けるようになったからだ。
• 千紗は決算を読んで、落ち着いた銘柄を月1で買う人になった。
• ノノは「3,000円までなら怖くない」をずっと守って、負けた日でも普通にお弁当を食べてる。
• 真白は3人分を並べる「見える板」をつくって、社長に見せては「いいねぇ」と言わせている。
俺がやるのは、たまに「やめる文を出そうか」「これは今日は見ないでいいよ」を言うくらいだ。
その日も、ふつうに午後を過ごしていたら、向こうの会社から1通だけメールが来た。
差出人は――御堂じゃない。若手のあいつだ。
件名:御堂さんの書式、ありがとうございました
こんにちは。以前にこっそり書式をもらった者です。
あれから社内で使っていたのですが、
先週、御堂さん本人が同じ書式で「今回はここでやめました」と出しました。
部長会でも同じ説明をしていました。
“これなら今後も安心して勧められる”って営業が言ってたので、
お礼だけ伝えたくてメールしました。
たぶんそちらの名前は出ません。ごめんなさい。
でも中身はそっちのです。ありがとうございました。
モニターを見て、俺はちょっとだけ笑った。
名前はいらない。
中身が残ってるなら、それでいい。
“安全です”の一言でごまかしてた会社が、いまは“2〜3%は動きます”って最初に言ってる。
それなら、もう俺の仕事は半分終わってる。
背後でノノが言う。
「なにかいいことありました?」
「うん。向こうの会社でも、やめる文が流れるようになったって」
「おお。それは平和ですね」
千紗も言う。
「“やめる”が言える会社のほうが、長く“やる”ができますからね」
真白がいつもの口癖で締めた。
「これで、“株がほとんど分からない人でも同じように説明できる”は達成です」
「そうだな」
これを見て、3人がうんうんと頷く。
元の会社でも、たぶん同じように頷いたやつがいたはずだ。
“あのときクビにしたやつが言ってたことを、今やってるんだな”って。
それでいい。
株がほとんど分からないのに運用ごっこをしていた会社、クビになった私が救う話 @pepolon
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