第22話 📺 システム崩壊後の「ノイズ」:特撮とエロスの交錯

 🔬 地下ラボ:春枝の解析開始

​ 春枝は、旧地方サテライトの地下にあるバイオ・リサーチラボを**「聖域」として確保し、茂と他の「不良債権」たちを配置した。彼女は、ラボに残されていた機器を起動させ、「ノイズ・バイツ」ウィルスの対抗策となり得る試薬のサンプル**の解析に着手した。

​ 彼女の周囲では、ピエロが他の「裏バイト」メンバーたちに防護服と武装を指示していた。ラボの外部では、**「妖怪」**のぼんやりとした影が、天然の番人として警戒を続けている。

​ 春枝の目の前にあるモニターには、ウィルスの複雑なプリオン構造と、対抗薬の分子シミュレーションが映し出されていた。これは、ヒューマンブリッジ社の**「裏の知性」**が残した、人類生存のための最後の遺産だった。

 📡 異質な電波:特撮とエロスのノイズ

​ その時、ラボの一角にあった、古いローカル放送用の通信機が、突然ノイズを上げ始めた。ヒューマンブリッジ社の中枢システムは崩壊したが、地方の独立した放送インフラの一部が、奇跡的に機能を再開したのだ。

​ 春枝は、その通信機に接続されたアナログテレビの電源を入れた。画面に映し出されたのは、激しい爆発と、正義のヒーローが叫ぶ声だった。

​「戦え! 宇宙の平和を守るため、仮面ライダーストーム!」

​ それは、システム崩壊以前から続く、日曜朝の特撮ヒーロー番組だった。健常な社会が、一日の始まりに**「秩序」と「正義」というメッセージを注入するために利用していた、「システムに組み込まれた安定のノイズ」**だ。

​ 春枝は、その光景を冷めた目で見つめた。

​(これも、人間を制御するための**『無駄な秩序』。しかし、人々はこれを必要とする。『新しい国体』には、新しい『正義の物語』**が必要だわ)

​そして、時計の針が、午前9時を指した瞬間、画面の映像が一変した。

​ 仮面ライダーの爆発音に代わり、突然、甘く退廃的な音楽が流れ出した。画面に現れたのは、過激な衣装を身にまとった女性たちと、露骨なセクシャルな描写だった。

​「お待たせ!システム崩壊の夜を乗り越えた貴方へ…秘密の扉を開く『深夜の誘惑』、今週もスタートよ!」

​ 地方の放送局が、システムの崩壊によって**「放送禁止コード」**という枷を失った結果、日曜朝の枠に、本来は深夜に放送されるはずの、極めてエロティックな番組が流れ始めたのだ。

📊 秩序の崩壊と「欲望」の開放

​ 春枝は、その光景を**「システムが感知できなかった、最も危険なノイズ」**として解析した。

​ 仮面ライダーの終了(秩序の崩壊): 健常な社会の**「規範」と「合理性」**が終わりを迎えたことの象徴。

​ エロスの勃発(欲望の解放): 人間が、システムの抑圧から解放された結果、**「生の欲望」という「制御不能なノイズ」**が、いかに強力に噴出するかを示している。

 ​春枝の**「推古のロジック」は、この現象を即座に「新しい統治の課題」**として捉えた。

​(**「ノイズ・バイツ」が肉体を「不良債権」化させるなら、この『エロスの奔流』は、精神を『制御不能な欲望の奴隷』にする。新しい国体は、この『欲望のノイズ』**も管理しなければ、崩壊する)

​春枝は、解析を続けるピエロに、冷徹な声で指示した。

​「ピエロ、この放送を**『データとして記録』**しなさい。これは、**システム崩壊後の『人間の本能の流動性』**を示す、最高のサンプルデータよ。そして、この放送波が、外部への通信シールドとしても機能するかを調べなさい」

​ 彼女は、茂の顔を見つめ、再び欽明天皇のロジックを思い出す。新しい国体を築くには、「正義」と「欲望」、そして**「生と死」、あらゆる「ノイズ」**を統合しなければならない。

​「私の**『新しい国体』は、『正義の仮面』と『エロスの本能』**、両方を統治するわ」

​ 彼女は、ウィルス解析のモニターと、エロティックな映像が流れるテレビを同時に見つめながら、その**「制御不能なノイズ」**を支配する冷徹な笑みを浮かべた。

​ 

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壊れゆく街 鷹山トシキ @1982

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