第21話 👹 地方サテライトへの潜行:春枝と「妖怪」のロジック

 🌳 聖域の確保と「妖怪」の存在

​ 春枝は、茂を含む「不良債権」たちを乗せた貨物バンで、房総半島内陸部の、ヒューマンブリッジ社が放棄した旧・地方サテライトへと向かっていた。周囲は濃密な森林に覆われ、システムの監視は完全に途絶えている。

​ バンを降りた春枝は、衛星通信機で周囲の環境データをチェックした。ヒューマンブリッジ社がこの地を放棄した最大の理由は、「システムが感知できない、非効率的な生態系のノイズ」、すなわち**「妖怪」**の目撃情報が多発したためだという、非公式な記録が残っていた。

​(完璧な隔離環境よ。ここは、推古が継承した**「新しい国体」の、揺るぎない礎**となる)

​ 春枝のロジックは冷徹だった。システムが恐れて排除した**「妖怪」は、「ノイズ・バイツ」ウィルスを媒介する「ノカリス」の侵入を防ぐ、天然の防護壁として機能する。システムが「非科学的」と切り捨てたものが、今や彼女の「新しい国体」**を守る砦となるのだ。

 ⛩️ 父の姿と「欽明天皇」の重なり

​ 春枝の脳裏に、日本の古代史の記憶が蘇った。

​ 日本の**「国体」の原型を定めたとされる欽明天皇の決断。それは、それまでの日本の「土着のシステム(神道)」に、「異質のノイズ(仏教)」**が持ち込まれた瞬間だった。

​(茂は、ヒューマンブリッジというシステムにとっての**「仏教」だ。『無価値な異物』として排除されようとしたが、彼の『生きたノイズ』**が、逆にシステムを崩壊させた)

​ 彼女は、茂の存在を、新しい秩序を正当化するための、「システムの始祖」の象徴に重ねた。システムが「不良債権」と呼んだ父の存在こそが、**「新しい国体の始まりの価値」**となったのだ。

​「お父さん。あなたは、私に**『新しいシステム』の始まりをくれた。あなたの『無価値』とされた力は、この崩壊後の世界を統治するための、『絶対的な価値』**へと変わるわ」

​ 春枝は、茂の車椅子を、サテライトの最も厳重な施設へと押し進めた。

🛡️ 聖域の確保:対抗策と「妖怪警護」

​ サテライトの地下には、ヒューマンブリッジ社が極秘に開発していたバイオ・リサーチラボが隠されていた。

​「ピエロ。このラボが、竹内の言う**『ノイズ・バイツ』の対抗策**を研究していた場所よ」

 春枝は指示した。

​ ラボの厳重な扉を開け、春枝は内部の電源を復旧させた。ラボの中央に、欽明天皇の象徴として、茂の車椅子を配置した。

​「ここが、私たちの新しい国体の『聖域』よ。ピエロ、『不良債権』たちを、このラボの周囲に配置しなさい。彼らの『制御不能な本能』は、侵入者を感知するセンサーとなる」

​ その時、ラボの外部カメラが、わずかにノイズを拾った。森林の暗がりの中に、異様に目が光る、人間とも動物ともつかない、おぼろげな影が映ったのだ。

​「あれが、ヒューマンブリッジが恐れた**『妖怪』**か…」ピエロが息を飲んだ。

​ 春枝は動じなかった。彼女はむしろ、その「妖怪」の存在を歓迎した。

​「恐れる必要はない。彼らは、システムが**『計算外』として切り捨てた、この土地の『管理者』**よ。そして、**ウィルスを媒介する『ノカリス』は、『妖怪』**のテリトリーには入らない」

​ 春枝は、推古天皇として、欽明天皇という**「始祖」の力を背景に、「不良債権」という「異質な力」を統治の基盤に据え、「妖怪」という「土着の力」を警護システムとして利用する。彼女の冷徹なロジックは、古代の王権と、現代の生物兵器という、あらゆるノイズを包括し、「新たな秩序」**を生み出そうとしていた。

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