Wander in search of love

めいき~

お化け達のハロウィン

 街では、色んな色の灯りが世界を照らしていた。ハロウィンではカボチャや吸血鬼などの様々な飾りやコスプレが街を染めあげていて。



 蜂蜜色のベレー帽を被ったお菓子達が、御伽話を切り離した様に。操り人形の様に踊りながらゾンビに話しかけた。



「よぉ、アイリス。今年もお一人様かい?」



「五月蝿いわね」


 浮いていたキャンディ達を摘み上げながら文句を言った。アイリスだって好きでおひとり様している訳じゃない。ただ、ゾンビは臭うし。歯抜けだし。いつもポケットに無くさないように目玉をいれていたりするだけだ。


 そもそも、生前はとても美しかった腰までの赤毛もゾンビになってからはほぼ名残がある程度にとどまる。


「そういえば、アイリスはずっと左眼を探していたね」お菓子の一個がそう尋ねると。アイリスは頷いた。アイリスがスカートのポケットに入れているのは右眼だけ。


「うん、私の左眼ずっと探してるけど見つからないの。もう、半分諦めてるけど。右眼があれば、何かを見るのには困らないし」


 そういうと、テーブルの中央にあったカボチャのランタンに灯りを灯す。


 たちまち、暗かった部屋が明るくなり。お菓子とアイリスは皆んなでハロウィンの歌を歌い出した。飾りだった蝙蝠や蜘蛛の巣がお菓子と一緒に踊り出した。


 アイリスはピアノを奏でた。以前、オカリナを吹いた時は音が出なかったが、ピアノは強めに鍵盤を骨で叩けば音は鳴る。


「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ〜」


「お茶の中に、塩をいれたり〜」


「鞄の中に、味噌をいれたり〜」


「落とし物を、本棚の上に置いたりするぞ〜」


 そこで、急に曲がとまる。



「ん? どうしたんだい。アイリス。曲を続けておくれよ」蝙蝠がピアノの鍵盤の上に止まってアイリスに尋ねると。ゾンビなのに、鬼の形相で。


「蝙蝠君」それは、地獄の底から響く様な声だった。蝙蝠なのに直立不動の様な姿勢になっていると判る程にビシッと固まる。


「私のお茶に塩を入れた?」


「はい、一袋」


「私が一番お気に入りの四人のインキュバス鞄に味噌をいれた?」


「はい、イケメン死すべしとかいいながら念入りに二袋赤味噌をぶちまけました」


 すぅ〜とオカリナの音が出なかったゾンビの口から息が吸い込むような音が聴こえた。


 蝙蝠とお菓子が、後ずさっていく。


「私の落とした眼、もしかして本棚の上にあったりする?」


 そういって、座っていた椅子を足場に生前パパとママとの思い出の写真が沢山入った本棚の上をよく見ると。うっすらと埃をかぶった自分の眼があった。奥の方に。


「君達、ちょっと」


 一斉に蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す。お菓子と蝙蝠とカボチャ。無論、白布のお化け達も壁を突き抜けて逃げ出した。




 ゾンビのアイリスの落とし物は、アイリスの左眼は紫で、右眼はカボチャ色。


 二つをピアノの横に飾る。今は自分の眼だけれど、元はパパとママの眼をもらったものだから。パパとママはゾンビにすらなれなかったから。



 ゾンビになっても、二人が好きだった音楽を忘れた事はなくて。



 今年は、落としモノが見つかって。

 両親にこれからずっと、見ていて貰える。


 ゆっくりと、またピアノを弾き始めた。



 ピアノの音色が灯りになって、アイリスは口を尖らせて呟いた。



 私は、おひとり様じゃない。



 悪戯好きの蝙蝠君達も、踊っているお菓子たちもみんないる。目玉だって、こうして揃って見てくれている。



 ハロウィンゾンビのアイリスの落とし物は、眼なんかじゃない。



 本当に見つけたかった。落とし物は……。




 アイリスは、楽しそうに笑う。



 落としてなんか、いない。


 ずっと、一緒で。

 ずっと、大切にしている。


 

 この時間。



 腐り落ちた身体に、腐らぬ心。

 痛みすら忘れたけれど、忘れぬ想い。



 一晩だけ、ゾンビは動き出す。

 一晩だけ、アイリスの曲が聞こえる。




 遺影も左右にゆれて、昔両親が両手で手拍子をしてくれたみたいに。


 ピアノと皆んなの踊る音が、流れていった。


 

<おしまい>


 

 



 

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