AI小説1位の次に来るもの──3秒後にしか存在しない物語の時代

解体業

AI小説1位の次に来るもの──3秒後にしか存在しない物語の時代



 カクヨムの恋愛ランキング、1位。クリックすると、紹介文に「AIを用いた」とある。


 コメント欄はそれとは独立した話題、内容の面白さについて語るものがほとんどだった。


 Xの一部の界隈でこのニュースは拡散された。AI小説でのガチャ戦略——テンプレート小説を大量投稿してヒットを狙う手法——がAIで超加速したと。反対派や、諦めムード、肯定派の「読者が満足してるなら問題なくね?」という声、小説投稿サイトのランキングシステムの変革を求める声。


 でもさ、みんな気づいてないんじゃないか。


 これは、まだなんだよ。


 AI生成小説のガチャ戦略は、効率的だった。例えば 、異世界転生、チート能力、ハーレム——テンプレの組み合わせを変えて大量投稿。人間が月に数作書くのが限界だったけど、運が良ければ一発当たる。宝くじみたいなもんだ。


 それがAIの登場で、宝くじがパチンコになった。いや、パチンコより速い。ガチャだ。回せば回すほど、何か当たる。しかも1日無制限に回せる。


 質はどうなのか? 2024年のScience誌の研究では、短編小説においてAI生成作品がプロの作家より高評価を得たケースが報告されている。読者は「クリエイティブ」「エンゲージング」と評価し、それがAIだと気づかなかった。


 つまり、もうバレないんだよ。短編なら量も質も、AIは既に、そう簡単には人間のと見分けがつかない領域に到達している。



「人間にしかできないことがあるはず!」——この希望、半分正しくて半分間違ってる。


 確かにLLMには弱点がある。NSFWコンテンツ(要はエロ)は生成制限*がかかるし、リアルタイムのニュースを織り込むのも苦手。日本語の同音異義語を使った言葉遊び——「旅の度にくたびれる」的なやつ——も、LLMには難易度が高い。長編も、一貫性を維持するのが難しい。



 でも。


 ウェブ小説の読者、そういうの求めてる?


 カクヨムや、なろうの読者層の多くは、仕事終わりに「サクッと読める癒し」を求めてる。複雑な言葉遊びより、テンプレ展開の安心感の方が刺さる。読書はストレスを低減すると言われるけど、それは「難解な文学」じゃなくて「気軽に読める物語」での話。


 つまり、AIが得意とする「そこそこ面白くて、裏切らない展開」こそが、マジョリティの需要なのだ。


 言葉遊びで差別化? それ、ニッチ層には刺さるけど、ランキング1位を取り返す武器にはならない。悲しいけど、これが現実。


 ところで。


 1960年代、ロラン・バルトという学者が「作者の死」を提唱した。ざっくり言うと、「作品の意味は作者じゃなくて読者が決める」という話。作者の意図? そんなもん知らん。読者が「感動した」と思えば、それが作品の価値だ。


 これ、AI小説にピッタリすぎる。


 だってAIには「意図」がない。ChatGPTもGeminiも、統計的にもっともらしい単語を並べてるだけ(ここは注意がいるが一旦スルー)で、「このシーンで読者を泣かせよう」なんて思ってない。でも読者が泣いたら? それは立派な「感動作品」だ。


 AI小説は究極的に"作者不在"のテキスト。読者の解釈が100%自由。人間作家の「俺はこういう意図で書いた」が、むしろ邪魔まである(極論)。


 カクヨムのAIの1位作品に「クオリティ高い」とコメントした読者は、まさにこの「解釈の自由」を享受してる。作者が人間だろうがAIだろうが、自分が楽しければそれでいい。


 これ、実は最先端の読書体験なんじゃないか?



 楽観視はできない。次のような観点で、AIテキスト蔓延による**認知的・文化的リスク**を警告している。


 LLMとの対話で人間の思考がLLM化するのではないか?


 これは意識を強く向けないといけない。AI小説を読み続けると、私たちの思考そのものが「AIっぽく」なる。予測可能で、テンプレ的で、驚きのない思考——それが認知レベルで起きるかもしれない。


 文化的にも、多様性が失われる。AIは既存データから学習するから、マイナージャンルや実験的作品は生成されにくい。結果、「売れ筋」ばかりが量産され、ニッチな面白さが埋もれる。……実は元からそうだったかもしれないけど。


 要するに、みんなの思考が同じようなものになる。社会への影響を考えるとゾッとしない?



[本題に入る(ここからが本番)]


 さて。


 カクヨムのランキングの脆弱性に驚いてる場合じゃない。次に来るのはスクロールした瞬間に生成される小説だ。


 想像してほしい。


 あなたがカクヨムで小説を開く。第1話が表示される。面白い。スクロールして続きを読もうとする——その瞬間、第2話が生まれる。


3秒前には、その文章はこの世に存在していなかったのに。


 さらにスクロール。また新しい展開が生成される。伏線? リアルタイムで辻褄を合わせながら作られる。エンディング? あなたが読むのをやめるまで、物語に終わりはない。


 辻褄合わせ以外については、技術的には可能だ。Claude、GPT-4などのストリーミングAPIは「書きながら出力」に対応している。コストも1万トークン(原稿用紙25枚分くらい)で数円。読者が月額500円払えば、読み放題だって成立する。


 何がヤバいのか


1. ランキングが死ぬ

 すべての物語が一回性。あなたが読んだ物語と、他人が読んだ物語は、同じタイトルでも別物。比較できない。ランキング? 何それ?


2. 「作者」が消える

 作者って誰? プロンプトを書いた人? アルゴリズム? それとも、スクロール速度で展開を変えたあなた自身?


3. 小説が「体験」になる

 小説が「静的なテキスト」から「動的なプロセス」に変わる。二度と同じ物語は読めない。まるでライブを観るような、一回性の体験。


4. 共有文化が終わる

 「ハリー・ポッター読んだ?」「あのシーン泣いたよね」——そういう会話が成立しなくなる。あなたの「ハリー・ポッター」と私の「ハリー・ポッター」は、別の物語だから。


 これはある種、悲観的な予測だ。社会の分断がもっと進んで、完全な個だけが存在する。だが、これまでのは単なる予測。そう、この勝負は未確定……! 未確定なんだ……!


 この変革の渦中において、私たちはAIを単なる脅威や道具として、矮小に評価したり、よく知らないまま語らないようにしようじゃないか。


 ということで、AIについて語っているのでこちらを読んでいただけると嬉しいです。


AIとは何者か

https://kakuyomu.jp/works/16818792440135998128


 途中、結構挑発的な主張もありますが、パフォーマンスというか……。おかしなところも多々あると思いますし、そこら辺はコメントなので指摘してくださるとありがたいです。


 また、「注目の作品」にのって、多くの人に多様な意見を取り入れていただきたいので、⭐︎などをくださると、嬉しく思います。


 



 最後になってしまいましたが、付け加えておくと、作家の価値が小説ではないところ、例えば交流に移る(元から?)という考え方もできます。


* しかし、NSFWに関しても「脱獄」や、ローカルLLMを用いることで書けないことはないですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

AI小説1位の次に来るもの──3秒後にしか存在しない物語の時代 解体業 @381654729

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ