残照の光芒【セプテムルクス】
白野 彩世
ep.1
――二疋の龍が正面から噛み砕き合い、それを尻目に二人の剣士が剣先で火花を散らし合う。
紫と、緑の龍が連続でぶつかり合って、少年少女が剣技を交え、半ば式典会場の舞台で披露する。
能力……もとい、異能と言う存在が当たり前のこの世界で、西の中では随一の異能者達が集う「白峯異能学園」。
新入生を歓迎するこのセレモニーは二人の、内、一人はぼくの身内が舞台に上がっての劇で、ぼくを含め新入生達はその眩い光景に大盛上がり……の、――――――ハズだった。
「――改変っ! 改変っ! 改変っ! だぁぁっもぅ、鬱陶しいなっ! 夜の街に這い出てくるネズミか何かかっていうの!」
声を荒げながらぼくは小柄な体躯を一杯に使って、異能を連続で発動させる。
右も左も分からず、縋ってきたタブン同い年の子を庇いながら。
低身長で身軽に何とか攻撃の連撃を躱し、童顔も怒になりがら、かつてない勢いで異能を連発。
白峯学園の新入生歓迎パーティーもといセレモニーに参加していたハズのぼくらは、正に唐突に始まった「ランキング制個人戦」なる物に巻き込まれ、盛り上がっていた会場は阿鼻叫喚に様変わり。
何の知らせも無かった1年生が中心に討ち取られていき、かれこれ数十分。
ぼくらを含め立ってる1年の中なら立ってる者は少なそうな状況下、まだピンピンしてるのが目立つに目立って、狙い撃ちの状態。
ぼくの異能は「予測改変」――。
対象の人間を意識すると、その周りにその次の行動目標がカタログ的に顕れて、どれかを選択すると相手の行動を無理やり歪曲するという代物。
例えば相手に特に意味もなく腕立て伏せを要求したり、告白させたり、地面をペロペロさせることだって出来る。
なので今、ぼくの周りの状況は軽いヒステリック的な雰囲気だ。
ある者は地に伏せ神を拝み、またある者は女子にナンパして異能で吹き飛ばされたり、またある者は白目剥いて譫言を呪詛したり……。
改変先はランダム。
ぼくの意向じゃない。
でも襲ってきたアイツらが悪いんだ。
ぼくは何ら悪くない。
あくまでも、自己防衛。
そう解釈してる。
一つこの異能でネックなのは、発動には必ず「改変」って口にしないといけないこと。
周りから見たら変な、イタイヤツ確定。
でも今はなりふり構っていられないのも事実。
消耗する体力。
庇いながらは限度がある。
遂に会場の四隅に追い詰められちゃった。
もう――だめ………………っ――。
「――ぐわぁぁぁぁぁぁっ!?」
途端、迫ってた余裕ぶってた上級生らの叫び声。
理由もなく氷漬けにされる上級生達。
庇にしていた腕を恐る恐る退かすと、目前には一人の靡く黒髪ロングが綺麗な、凛とした子。
「君、立てる?」
「えっ? あっ、はい……」
手を差し伸べられ、言われるがまま掴んで立ち上がる。
ロングの女の子はどこかぼくを選定するような目で見た後に呟く。
「共に切り抜けるわよ。君、名前は?」
「――黒木……、黒木、蓮……です」
「そう。私は姫井叶。そこの後ろでビクビクしてるアンタは?」
「ひゅっ!? ひゅゃぃっ!? わ、わ、わ、私は楯原麻菜で……」
「そう……それだけ分かれば充分よ。 ……さぁ、時間切れ《タイムオーバー》になるまで、乗り切るわよっ!」
――どうにかぼくらはこの状況を突破することが出来たらしい。
現にぼくは今、地に立ってる。
産まれたての子鹿みたいに脚がガックガクだけど……。
明日は筋肉痛かな。
そう思いながら周りを見渡す。
酷い有様だ。
さっきまでの盛り上がっていたセレモニー会場は今何処。
場は好き放題能力ぶっ放なされてたのせいか、軽く荒廃しきってる。
幾つかも噴煙上がってるし。
軽い戦場跡……?
戦場よりかは生温いかもだけど、此処学園内の敷地だよね? って自分を疑いたくなっちゃう景色。
「貴方、思いの外やるじゃない。蓮くん、と言ったかしら?」
「あっ、はい……もう、ヘトヘトですけど」
ぼくをやはり選定するような目で。
「容姿の割にタフなのね。貴方」
歳の割に、妙に大人びた口調が気になる女な子。
それが彼女、姫井さんなのかも知れない。
クールビューティっていうの?
スレンダーで、シュッ、としていて躰のラインが綺麗。
「こんなに異能連発したのは初めてだよ……もうだめ……もう限界……」
「でも蓮君すごいよぉ お陰で私、本当に助けられちゃったから」
「君に関してはもうちょっとばかり手伝って欲しかったというか、なんていうか……」
「だってぇ……恐かったもん……」
黒髪の肩ぐらいまでのゆるふわセミロングで、ウルウル顔でそう訴えてくる彼女、楯原さん。
豊かなブレザーの制服越し胸がチラ見えして、思わず目を逸らす。
自分の強みが分かってるのか、態と見せつけてきてる感。
この様子タブンぼくと同じ新入生と見るべきか。
タブンこの感覚が普通といえば普通なんだろうなぁ……。
「お兄ぃ! お兄ぃ! 無事だった! 恐かったよぉ!」
「えっ? うわっ、ちょっ!?」
突然横から女の子にやたらスキンシップに絡まれる。
妹の黒木夢だ。
左巻きのサイドテールで、黄色いリボンが印象的。
お調子者で親近度MAXに絡んでくるのはいつものこと。
多少は加減という物を知って欲しい。
周りは見てるのだから。
そしてちゃんと夢も夢で立派な物を持ってる。
態と当ててない?
妹なのに、若干ぼくより背丈が高いのはちょっと気になるポイント。
中等部の中三だったと思うけど、中等部も関係なく巻き込まれてたのかな?
「なんだ 君、妹さんが居たのか?」
「ちすちす黒木夢で〜すっ、お兄ぃがお世話になってま〜っす」
「お世話も何も今日会ったばかりのほぼ初対面同士なんだけど……」
「ふふっ……仲良し兄妹さんなんだね〜。お兄ちゃんなのに、妹さんよりもちっちゃくてカワイイ」
「でしょでしょ〜? そこがチャームポイントなんですよ、お姉さんっ」
「うぅ……その点すっごい気にしてるんだから、おちょくるのやめてよぉ……」
こんな状況下なのに妙に適合力高いなコイツ。
まぁ所謂コミュ強というのかな。
あと背丈の所は本当に遺憾。
遺憾の意を表明したい。
普通にグサッってくるから。
いつもちゃんと牛乳飲んでるから、朝一に!
「――流石、私の弟だ 毎年恒例だが良くこのセレモニーを耐えたな」
ポンポン、と頭の上に手を乗せられてくしゃくしゃと可愛いがられるぼく。
嫌いじゃないけど、人前でされるのは一層恥ずいという物。
後をゆっくり振り向く。
「毎年恒例って……? 香子ねぇ」
「この入学祝いセレモニー兼初見殺しじみたような式典は、毎年のまぁ手荒い歓迎会みたいな物でな。新入生にこの学園が何たるかというのを、直接的に叩き込む良い機会として定着している」
「ハードというか、初手ブラックすぎやしない? 香子ねぇ……」
「まぁでも蓮 お前ならこの程度の内容然と乗り越えられると、私は舞台上から信じてたよ」
そう優しく微笑みながら言う彼女は、香子ねぇこと、城居香子はぼくの実質的なお姉さんだ。
十六、高二、背中まで伸びた長い黒髪ロングと、Fはあるらしい(当人公式)豊かな物が印象的。
弟とか、香子ねぇ、とかって呼び合ってはいるけどぼく達の間には血は繋がってない。
ぼくらがただそう勝手に呼び合ってるだけ。
ただ単に昔から黒木家と城居家との間で交流があるからだとかなんちゃらで繋がりがあるだけで、近親関係ではない。
強いて言えば香子ねぇの方が昔から、良く遊びに来てたから自然とそういう風な呼び合いになった程度。
「では私はまだ野暮用があるのでな。これで失礼するぞ」
去り際意味深に夢の方を見る。
夢も一瞬香子ねぇの視線を感じ、キョトン顔をするが特に何も告げず凛と去っていく。
まぁ気にしすぎても仕方ないとは思うけど……。
それにしても……。
「これから……どうしたものか」
思わず頭を抱える。
異能の強さ次第では将来の就職先を斡旋してくれるからなんちゃら、って香子ねぇが言ってて、強くオススメもして、公式サイトにも書いてあったから信じて来てみたは良いけど……。
まさかこんな所だったなんて……。
「なら、私と組めば良いんじゃない?」
「……へ?」
思わぬ提案に、思わず姫井さんを見上げる。
両腕を組み、どこか吟味するかのような視線でぼくを見つめて。
「組むって……?」
「何? 貴方、このチーム制っていうのを知らないの?」
「チーム……制?」
「そう、チーム制」
姫井さんが懐から取り出したのは、この学園へ入る折に渡されたスマホもとい専用端末だ。
液晶画面には確かに「チーム」と書かれた画面。
「一人が不安なら、私と組みましょう? っていうお誘い。此処に居る全員と」
「えっ!? それって、私も!?」
思わぬお誘いにあわあわとたじろぐ楯原さん。
チーム制、そんなのがあったんだ。
公式サイトは覗いたことあっても、隅々までは確か見なかった記憶。
でも、チームを組んだからといって……。
「少なくともソロよりは色々融通が効いて便利のハズよ。各々の負担も減る。悪くない話でしょう?」
ノるかノらないか。
専用端末の液晶画面を見ながら、ぼくは淡々と画面をタップしていった。
残照の光芒【セプテムルクス】 白野 彩世 @aiuenoA
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