第2話 勘違い

……なんか、朝からどっと疲れた。


いや、清水さんのおかげで何事もなく電車からは降りれたけど。


でも本末転倒というか……おじさんには色々をわからないよ。


「……すみません、余計なお節介でした」


「えっ? ……いやいや、そんなことはないよ。でも、清水さんも無理はしないで良いからね」


「私は別に……」


「それじゃあ、俺はここで」


「待ってください……!」


ホームから離れようとすると、清水さんに手を掴まれる。

待って待って! なんか柔らかいんだけど!?

振り向くと、何故かむすっとしている清水さんの姿が。


「な、何かな?」


「どうして先に行くのです? 働き先は同じなので、一緒に行けば良いじゃないですか」


「いやいや、そんなことしたら変な誤解されちゃうし」


「……私はそれで良いのですが」


「はい? ごめんね、人混みでよく聞こえないや」


「と、とにかく! 一緒に行きます!」


「……はぁ、わかったよ」


こうして押し問答をしていたら遅刻してしまいそうだ。

俺は諦めて、清水さんと共に改札を抜けて店に向かう。

ここから徒歩十分はあるので、結構時間がある。

どうする? ここは上司として、人生の先輩のして話題を振るべきか?

いや、しかし……うざがられやしないか?


「……吉野さんは私のことが嫌いでしょうか?」


「はい? なんの話だい?」


「いえ、わかってます。私なんか可愛げもないし、吉野さんに迷惑かけてばかりですし」


そう言い、落ち込んだ表情を浮かべた。

理由はよくわからないが、部下が落ち込んでいるなら励ますのが上司の役目。

下手に話を振る前でよかった……本当に。


「いやいや、そんなことないよ。清水さんにはいつも助けられてるしさ」


「そうでしょうか?」


「うんうん、そうだよ。お陰で俺は仕事しやすい。君は仕事も出来るし、後輩にだって慕われてるし」


俺の働き先はイタリアンレストランで、俺は料理長としてコックを担当、彼女はホールのまとめ役を担っていた。

直接的に関わることは少ないが、それでも調理場の人間にとってホールの人の助けは重要だ。

彼女はテキパキと仕事をし、俺達が料理しやすい様にしてくれていた。

仕事ぶりや容姿も相まって、きっと新人社員の憧れの存在だろう。


「そうでしょうか? いつも避けられてる気がします……」


「うーん……もう少し笑った方が良いかもしれないね。ほら、折角可愛いのに不機嫌そうに見えることがあるからさ」


「っ……!? か、可愛い……?」


し、しまったァァァァ!?

これではセクハラ案件だ!!

その証拠に、清水さんの顔がどんどん赤くなっていく!


「も、申し訳ない!」


「き、気をつけてくださいね! 私だから良いものの……」


「うんうん、以後気をつけます」


「私以外に言うなって意味で言ったのですけど……って私ってば何を」


何かを呟いた後、足早に歩いていく。


これで一緒に店に入ることなく、俺はホッと胸を撫で下ろす。


やれやれ、若い女性の考えることはわからないなぁ。


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2025年12月9日 07:57

アラフォーの俺、何故か年下の美人部下に迫られる おとら @MINOKUN

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