初デートには何を着る?

ファラドゥンガ

初デートには何を着る?

 「うん、それじゃあ、明日駅前で」


 「フフッ、楽しみにしてるね、魔法使いさん――」

 数秒の余韻を残して、通話が切れる。


 「……よっしゃ!」

 僕は思わず両手でガッツポーズ。

 というのも明日、片思い中の彼女と念願のデートなのだ。

 少々のハイテンションもむべなるかな、である。

 が、僕の高揚は部屋中に伝わってしまい……。

 

 『おめでとう!』

 そう言わんばかりに、家の家具や小物たちが一斉に騒ぎ出した。


 僕は魔法使い。

 いや、魔法使い

 なんせ師匠マスターの教え方がキツくて、こっそり逃げてきたのだ。


 半端者ではあるけれど、家の中の物に命を吹き込むくらいの魔法なら使えた。

 それで、掃除機や洗濯機などの大型家電から爪切りなどの小物にまで命を与え、家事や雑用を手伝ってもらっている。


 当然、今回のデートの件にも彼らは、

 『さあ準備開始だ!』

 と、てんやわんやの大騒ぎ。


 誰よりも張り切っていたのは、クローゼットの中から飛び出したジャケットだ。

 明日がデートだと聞いて、ブラシでササっとほこりを拭いたり、しわを消し去ろうと腕をピーンと伸ばしたりと、楽しそうに準備に勤しんでいる。


 だが、健気に頑張る彼に言っておかねばならないことがあった。


 「……残念だが君はお留守番だ」


 「!?」


 彼は驚きのジェスチャーを作って、WHY?と両袖を広げる。


 「……だって、君はフォーマルじゃないか」


 「!!」


 彼は黒い礼服として生を受けた。

 よってこれまで、成人式か冠婚葬祭の頃にしか活躍の場がない。


 「初デートは弟のカジュアル君と行く」


 クローゼットがパタリと開き、カジュアル・ジャケットがグッと袖を曲げて『よし!』と勝利を確信。


 しかし、フォーマル君はジタバタと暴れて抗議した。

 つい先日、彼を着て知り合いの結婚式に参加したのだが、素敵な式の雰囲気に飲まれて以来、彼は「愛」に目覚めたらしい。


 『俺だってデートに参加したい!』

 フォーマル君の心はそう叫んでいる。


 「うーん……まあ、ビシッと決める時にこそ着たいが……」


 いかんせん、明日のデート場所は牧場だ。

 緑の草原、ほし草の香ばしい香り、可愛い牛や馬、ハエの大群……。

高級レストランでの食事やオーケストラを聴きに行くわけではない。

 ここはやはりカジュアル君が似合いだろう。


 諦めきれぬフォーマル君、サングラスや黒いハットを取り出して必死にアピール。


「いや、それ……ブルースブラザーズ?」


 さらに、アイテムとしてトレンチコートや革手袋を取り揃えて来た。


「もはやシカゴのマフィアだな……。フォーマル君、ごめんよ」




 * * *




 次の日の朝、僕は念の為にフォーマル君をクローゼットに閉じ込め、命が動き出さぬよう封をした。

 それからカジュアル君をサッと着こなして、オシャレな姿で待ち合わせ場所に向かう。


 「お待たせ~!」


 約束の時間ぴったりに、背後から彼女の声。

 

 僕はソワソワしながら、彼女の方を振り向く……すると、

 「「!?」」

 僕とカジュアル君は驚愕した!


 彼女は、全身を灰色タイツで覆った姿で現れたのだ!


 「牧場と言えば、やっぱ宇宙人(グレイ型)かなって……」

 

 (キャトルミューティレーション?いや……そう言えば!)


 僕はそこでようやく、ハロウィンが近いことを思い出した。

 彼女は、恥を忍んでコスプレ姿でここまでやって来たのだ。


 彼女は僕の無難なオシャレ着姿をじっと見つめて、

 「魔法使いって話だったけど、なんか普通だね……」

 僕が魔法使いであったことを、ハロウィン時にコスプレするのだと勘違いしたらしい。

 

 その後、彼女のテンションが上がることはなかった。

 「ハロウィン・ショー」のイベントがカボチャ畑で開かれた時は最悪だった。

 参加者が続々と妙な格好をして踊る中、無難な恰好の僕は端から覗くだけ。


 結局、デートは大失敗。

 片思いの恋もまた、儚く散ってしまった。


 僕は激しく後悔した。

フォーマル君を着て、トレンチコートに黒いハット姿でいたなら……世界で一番、宇宙人(グレイ型)の手を握るのに相応しい格好だったのに。


 

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初デートには何を着る? ファラドゥンガ @faraDunga4

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