【400字】10年目【書き出しと終わり指定】

山本倫木

10年目

 君の好きな歌を口ずさんだ。


 今日は土曜日で、今は昼どき。君は子供と出かけていて、僕は家に一人。本当は僕も一緒に行きたかったけれど、当選したペアチケットは二人しか入場を認めてくれないから仕方がない。


 カップ麺の蓋をきっちり半分剥がし、具材とスープの封を開いて中身を乾いた麵の上にあける。指定の線の位置までたっぷりと熱湯を注いでから、あの歌を口ずさむ。君がここに居なくても、僕が口ずさむのは君が好きなあの曲。ジブリの中でも君が一番好きな作品のオープニングテーマ。「さんぽ」は、前奏含めても2分半くらい。けれど、だからこそゆったりと口ずさめばちょうど3分が経過する。手元に時計がない時に、君がよくやっている手だ。


 歌いながら待つ。3分間待ってやる。いや、これは別の作品だったな。歌い終わる。時間だ、答えを聞こう。そこでやっと僕は気が付いた。


 これ、カップ焼きそばだった。先にスープの素を入れちゃダメなやつじゃん。


 もう遅すぎた。





【了】

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【400字】10年目【書き出しと終わり指定】 山本倫木 @rindai2222

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