水色の残光(シニア男性のおしゃれ論

乾 未知(いぬい みち)

第1話

還暦同窓会。クラスは男女同数だったはずが、会場は明らかに女の園。

女性7に対し男性3。


「Why?なぜ」


男ども、そんなに早く死ぬタチでもない。丸山君が来ていない。幹事に探りを入れると、「薄くなった頭髪を同級生に見られたくないみたい」とのこと。


「エッ、あの丸山君が!」


丸山君といえば、成人式の代表「誓いの言葉」で演壇に立ったあの輝き。

市長を前にして、彼の頭髪はまさかの水色(みずいろ)!

当時、茶髪がやっと出始めた頃に原色の青でも赤でもなく、水色!

ざわつく会場、来賓、恩師は唖然呆然


あの最先端を行く男が、薄毛ごときを気にするようになるとは、

「四十年の時とは残酷なものだ」と皆が思う。

周りを見渡しても精一杯の身だしなみであるが白髪、薄毛、お肌のシミ、老人性イボ、とどめの加齢臭となかなかでである


でも今回の同窓会は過去数回のモノとは雰囲気がちがう


社長の名刺をまき散らしピッカピッカのスーツにブランド時計のおっさんと、

同様にハイブランドのスーツを着こなす女自営業者やどっかのマダムが株や土地売買の話を大げさに吹聴する見栄っパリ大会は、なりを潜め至って普通!


やっと一次会から穏やかな語らいの時間が送れる、これぞ同窓会!


「さあ~二次会はカラオケで校歌うたうぞ~!」



同窓会と言えば先日親戚の叔父義一から聞いたお話を、

叔父が言うには今年八十五歳の同窓会があったそうで「85?」

今回の同窓会は、女性二十人、男性五人だったそうだ。


生存率そのくらいか?


叔父自身最初は固辞したそうだが、幹事の誘いを断りきれなかったと言ってた、

「両手に花どころか、全員ばーさんだぞ。しかも幼馴染で1つ言えば10返ってくる女共。俺たち野郎は固まって小さくなってたよ」と叔父は言った。


しかしその会は画期的だったらしい。

(同窓)会場を中心に数方向一番遠い人がルート順に自宅まで迎えに行き一人ずつタクシーでピックアップするという

「交通費込み」の会費システムを採用したのだという。

「なかなかの名幹事がいらっしゃる」


「もう俺ら男どもは、これで最後として分かれてきたよ」

と叔父は寂しそうに口をつぐんだ。

一方の女性たちは、「米寿、白寿」と苦行を続けるのだろう。


シニア男性のおしゃれ論とは、

結局のところ、

かつての「水色」のプライドを脱ぎ捨てて、

加齢の現実を

「病気があろうが、しかられようが、タクシーに乗ってでも会いに行く」


という素直な行動力と、それを笑い飛ばす心の軽さなのかもしれない。


丸山君は、まだそこに至れない。


彼の心には、まだあの水色が残光のようにくすぶっているのだ。



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AFTER

読んでいただきありがとうございます、精進いたします。

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