第50話

 カタコちゃんとユウキちゃんの戦いがとうとう始まってしまった。


「ハッハッハ!流石だね、あの独眼蝶どくがんちょう相手にあのユウキくんがここまでやるとは!」


 猛攻を繰り広げる両者、実力差はほとんどなく互いに拮抗しているようだった

 以前見たユウキちゃんとは何もかもが別次元だ、いつも何が相手だろうと一蹴するカタコちゃんと互角だなんて……


「どうかな、私の発明品は……やはり彼女は最高傑作だよ」


 その様子を瀬甲斐牛次郎せかいぎゅうじろうは満足そうに見ていた、まるで自分の所有物かのようにユウキちゃんを見る態度に腹が立つ。


「ユウキちゃんを……物のように言うなっ!」


「くっくっ、これは失敬……」


 まるで悪びれる様子のない態度にイライラする、思わず手を出してしまいそうだ……正義のために出さまいと決めているこの手が。


「そんな余裕ぶっていられるのも今のうちですよ、すぐにカタコちゃんがお前の悪の野望を打ち砕く!」


「くっくっ……悪の野望か、私は自分のことを正義側だと思っているのだがね?」


「正義を語る人間が人を騙して酷い実験の実験台なんてするか!お前は、紛れもなく悪だ!」


「そうかな、私の考えを聞けば君も賛同してくれるさ。君も正義を名乗っているなら、なおさらね。少し語ろう、決着はまだつかないようだしね?」


 二人はまだ猛攻を交わしている、まだまだ決着はつかないようだ。


「……何を聞いても、僕の考えは変わらない。それでもいいなら、話だけ聞いてやりましょう。」


「それでは語るとしよう、この私の計画を……その理由を!」


 モニターに映る二人の戦いを尻目に、瀬甲斐牛次郎は語りだした。


「私はね、この国を救いたいんだよ。かつて、人も魔も戦乱の世の中で争い力を高めていたこの強き国は今や見る影もないだろう?国民は負け犬根性を植え付けられ、諸外国からの圧力にはすぐに屈し、自らで国を守る力を失った……嘆かわしいとは思わないか!?」


「平和になった証拠だ、良いことでしょう」


「そんなもの仮初の平和だよ、今なお水面下で国同士のあらゆる戦いが起きている。私は国の研究者として従事していた頃に……討魔剣士の存在を各国への武力交渉の材料にすべきだと訴えた。討魔剣士という強大な戦力があればすぐにでも力ずくで世界の頂点に立てる!と。」


「何をバカな、討魔剣士だって無敵じゃない。そんなことしても、他の強い力を持っている存在に叩きのめされるだけですよ!」


「そうだね、いかに討魔剣士といえども人間だ。核ミサイルなどに勝てる道理もない。しかし、核ミサイルなどの近代兵器では魔を祓うことができない。魔の存在は世界中に危険な火種として埋まっているからね……つまりは三竦みなのだよ。その一角を手中に納めることが、この国を救う正義の核となると!」


 感情が入り熱弁をする瀬甲斐牛次郎は仰々しく手を振る、まるで何かに取り憑かれているように……いや実際にこいつは憑かれている。行き過ぎた力の思想に。


「しかし国はそうしなかった、昔から政府は討魔剣士を政治には利用しないというしきたりがあってね。討魔剣士自体にも、存在を隠すように影の存在であるように厳命していた。」


 そうだ、かつて僕が討魔剣士のことを知らなかったようにそもそも討魔剣士は世間一般的には隠された存在。

 禍津まがつ魔鬼まき、悪い妖怪を倒し人々を助けるためだけに力を使うヒーローのような存在なんだ……人と人が争うようなことに関わるはずがない。


「この世界には討魔剣士ような特記的な戦力が何人かいる、公表されてはいないがね……そして国同士での交渉事には当たり前のように使われている。にも関わらずこの国だけが討魔剣士を政から遠ざけている!くだらない古いしきたりでね!」


「それは間違っちゃいないはずだ!いくら強大な力だって、個人だけの力を国が当てにするなんて馬鹿げてる……他の国には他の国の事情があるのかもしれないけど、少なくともこの国はそうしなくても良かったってことじゃないか!」


「フッ、今の国の惨状を考えると愚かという他ないね……力があるならそれは振るうべきだ。ともかく国はどうしても討魔剣士を国力として使わない……だから私がしきたりに縛られない討魔剣士の力を超える存在を作ることにしたんだ。」


「それが、あのグレーターデモンなのか……!」


「あぁ、討魔剣士と敵対する存在……禍津を利用すれば可能じゃないかと考えていてね、これはこの国の暗部が密かに計画していたものでもあるんだが……まぁ今は些細な話かな。その一環が過去に制作した一部の魔鬼、そして君の言う通りグレーターデモンだ……その強さは証明済みだろう?」


 たしかに、グレーターデモンはユウキちゃんを一蹴し……のちには西国乙女の3人を相手取ってなお負けていないほどの強さを持っている

 それは並の討魔剣士よりも強い力を持っている兵器を完成させたということだ。


「魔鬼はともかくグレーターデモンは成功だった、並の討魔剣士では敵わない強力な力を持ち……将来的には量産できる目処もある理想的な戦力さ。……まぁ禍津を利用してる以上討魔剣士との軋轢は避けられないし、最初の機体はカタコくんに倒されてしまったがね」


「そうだ!グレーターデモンなんて存在、討魔剣士が許すはずがない!カタコちゃんがいる限り、お前の目的は達成されないはずですよ!」


「そう……だから次に私は討魔剣士『独眼蝶』を越えることを目指した、そして最終的に辿り着いたのがユウキくん……彼女だよ。魔鬼ではなく討魔剣士を素体に、禍津を取り憑かせることでマインドコントロールによる制御を可能にし体に眠る討魔剣士の力を限界まで解放させたのさ。あとはグレーターデモン同様魔鉄まてつによる武装を施し、理論上は独眼蝶を超えるであろう兵器となったのさ」


 そういうことだったのか、ユウキちゃんになんてことを……彼女はただひたすらに頑張っていただけなのに、こんなことに巻き込まれて利用されるなんて……!


「討魔剣士の素体をどうするかは悩みどころでね、はじめは過去に死んだ討魔剣士の遺骨から遺伝子を抜き取りクローンを作ろうとしたんだ。だが完全なクローン作製は時間がかかるから途中で研究の方向性を変えたがね……その結果は新型のグレーターデモンに搭載した疑似魂魄さ、今頃アレは他の討魔剣士達を蹂躙してるんじゃないかな?」


「……!長官さん達のところに現れた、2機目のグレーターデモンか!」


「あぁ、アレにはかつて最強と言われた『御成おなりノブヒメ』の疑似魂魄が入っている。かなり成長して大元に近づいていたと思うよ、完全再現とは言わないが現代の討魔剣士じゃ独眼蝶以外はまるで刃が立たないだろうね。そしていずれそのグレーターデモンもここに戻り、独眼蝶と戦うだろう……流石に独眼蝶と言えど厳しいんじゃないかな?今でさえ、ユウキくんに苦戦しているようだからね。」


「そんな……!カタコちゃん!?」


 モニターでは、ユウキちゃんの槍の猛攻にカタコちゃんが押されていた。

 あのカタコちゃんが押されているだなんて……!


「ユウキちゃん……!やめて、やめてくれ……!」


「いやぁ、ユウキくんには感謝しているよ……おかげで私の計画は大幅に進んだからね。彼女に力を与えてあげたのは心ばかりの礼さ!ずっと力を欲していたからねぇ彼女は!実に御しやすかったよ、過去の栄光を忘れられない落ち目の家は!その落ちこぼれ娘は!はーっはっはっは!」


「ッッッ!!!」


 悪魔のように人を弄び、嘲笑うこの男に……僕の中で、決定的な何かがキレる。


 僕は今まで生きていて初めて、怒りから……憎しみから……人を殴った。


「ぐっ……!せ、正義を掲げる君には理解してほしいものだがね……圧倒的な力で支配することこそが、正義だと!現に君は!私を殴り力で支配しようとしているじゃないか!」


 僕は怒りに任せて、目の前の男を殴る。殴る。殴る。

 痛い、手が、心が……こんなにも痛いことが……辛いことが正義だというのか。


「違う!これは、この拳は……お前に間違いを教えてやる拳だ!力で支配することが……正義なわけない!こんなことのために……!ユウキちゃんは……キドウは……っ!」


「こんなこと!?私の正義を、そんな陳腐な言葉に置き換えないでもらおうか!ぐっ……所詮矮小な一般人、到底理解できない猿か……!」


 僕だって、時には力が必要だって分かってる。

 力無き正義に意味なんてないこと、何度も分からされてきた。


 でも、それでも力を持つものが好き勝手して……ねじ伏せ弄び傷つけることが正義なわけがない!


「これがっ、これが正義なのか!より強い力でねじ伏せることがっ!!!こんなの間違ってるだろっっっ!!!」


「ぐっ…!は、ははっ!殴れ、殴れ……!殴れば殴るほど、君が私の正義を肯定した証拠になるのだから!」


「なんでっ、昔の僕にさえ分かったことが!なんで大人であるアンタが分かってくれないんだっっっ!!!!!!こんなことが、正義であってたまるかああああああ!!!!!!」


 何度殴っても、顔から血が流れても狂気的な笑いを絶やさないこの男を壁に突き飛ばした。

 このまま殴り続ければ、殺してしまう……こうまでしても意見が変わらないこの男はもう、何をしても考えを改める気はないのだろう。


「なんで、なんでだよぉ……っ!」


「くっく……泣くな、若き正義の使徒!大人とは、そう簡単に生き方を変えられないのだよ…っ!そう思うならば……君は、そのまま君の思う正義を進みたまえ……そしてやがて知るのさ、私の正義が正しいと……そら、そろそろ向こうもクライマックス……だ……」


 瀬甲斐牛次郎はそういって壁にもたれ掛かり静かになってしまった、息はある……どうやら気を失ったらしい。

 しこたま殴ってしまったから……元々身体を鍛えているような人間ではなかったのだろう、痩せていて僕よりもずっと非力な男だった。


「っ!そうだ、カタコちゃん!」


 熱くなってカタコちゃんとユウキちゃんの勝負から目を離してしまっていた

 急いでモニターを見る、満身創痍のカタコちゃんが写っていた……血が流れる右目を押さえ、刀を杖に辛うじて立っているようだった。


「そんな……カタコちゃん!」


 そして相対するユウキちゃんは傷らしい傷もない、勝敗は決したかのように見えるが……


「負けるな、カタコちゃん……!ユウキちゃんを助けてくれ……!」


 僕には祈ることしか出来なかった。


 しかし僕の祈りは届いたのか……カタコちゃんは見事逆転してみせた!


 傷を負っていた右目を引き抜いたと思ったら、代わりの赤い珠が入り元通りになって……すぐにユウキちゃんを倒してしまったのだ。


 僕には何が起きたのかさっぱり分からないがカタコちゃんの右目は特別なものだというので、そういったことが可能なのだろう。


「見たか!カタコちゃんの勝ちです!お前の野望もこれまでだ!」


「……」


「っと、気を失ってるんでしたね……カタコちゃんが来たらそのまま運んでもらいますか。」

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伊達巻カタコ討魔伝!〜僕に世話焼く可愛い後輩ちゃんは最強の討魔剣士!?〜 灯明碧 @to_myo_midori

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