サンドイッチのひみつ
霜月あかり
サンドイッチのひみつ
朝のキッチンには、パンの焼けるいい匂いがしていました。
ユイちゃんのママは、お弁当づくりの真っ最中。
「今日は遠足の日だもんね。がんばらなきゃ」
ふわふわのパンに、たまごサラダ。
その上にハムとチーズ、そして色とりどりの野菜。
ママはひとつひとつ丁寧に重ねていきます。
「ユイ、どんなサンドイッチがいい?」
「うーん……ママの“まるいサンドイッチ”がいい!」
「まるいの?」
「だって、まるいと“にこにこ”に見えるでしょ」
ママは笑いながら、まるい型でパンをくり抜きました。
“にこにこサンドイッチ”。
小さなハート型のピックを刺して、完成です。
* * *
幼稚園のバスが到着すると、ユイちゃんはリュックを背負って大はしゃぎ。
「ママ、いってきまーす!」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
バスの窓から手を振るユイちゃん。
その姿を見送りながら、ママは少しだけ胸がきゅっとしました。
(ちゃんと食べられるかな。お友だちと仲よくできるかな)
* * *
遠足先は広い公園。
どんぐりを拾ったり、バッタを追いかけたり。
ユイちゃんは友だちのミナちゃんと一緒に元気いっぱいです。
やがて、お弁当の時間になりました。
「ねえ見て! ユイちゃんのサンドイッチ、まるい!」
「ほんとだ、かわいいね!」
ユイちゃんはうれしくて、にこっと笑いました。
でも――ひと口かじると、目を丸くします。
「……あれ? なんか、ちょっとあったかい?」
パンのすきまから、ほんのりとした“ぬくもり”が残っていました。
ママが早起きして作ってくれた証拠です。
「ママの手のあったかさだ」
ユイちゃんはそうつぶやいて、もう一口。
そのとき風がふわっと吹いて、木の葉が舞いました。
陽の光がきらきらと差し込み、みんなのサンドイッチが金色に輝きます。
「ユイちゃん、それ、にこにこみたい!」
ミナちゃんが笑いました。
「うん。ママのサンドイッチは“しあわせの味”なんだよ」
* * *
夕方、バスが幼稚園に戻ってきました。
ユイちゃんが走ってママに飛びつきます。
「ママ! サンドイッチね、すっごくおいしかったよ!」
「そう、よかった。お友だちと楽しかった?」
「うん! ママのサンドイッチ食べたら、みんな笑顔になったんだ!」
ママは優しく笑って、ユイちゃんの帽子を直しました。
「それなら、ママのほうこそ元気をもらった気がするな」
夜、ユイちゃんは布団の中でつぶやきました。
「ママのサンドイッチって、まるいけど……ほんとは“まるいこころ”なんだね」
月の光がカーテンのすき間から差し込み、
ユイちゃんのほっぺをやさしく照らしました。
その夢の中――
まるいサンドイッチが、まるい月みたいに空に浮かび、
ユイちゃんとママを“にこにこ”包みこんでいました。
サンドイッチのひみつ 霜月あかり @shimozuki_akari1121
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